05.竜の胎


「うわあ! ドラゴンタワーの中って、こんなふうになってるんだ!」

ドラゴンタワーの中に入ったあたしの第一声はそれだった。

入り口で人がたくさんいたように、タワーの中も人で溢れかえっていた。
さっき入り口で変なパンダに渡されたドラゴンタワーのガイドマップを見ながら、右に左、上に下とキョロキョロと視線を動かす。

賑やかって言うよりも、なんかガチャガチャしてるなあ。

人の声やアトラクションの音が混じり合って、耳が変なふうになる。
後ろでバンとオタクロスが何か話しているはずなのに、ぼわっとしてよく聞こえない。
ついでに自分の声も鈍く聞こえてくる。

中国のシャンパオに司令コンピュータがあると分かって、あたしたちはシャンパオにやって来た。
でも、シャンパオにあるってだけで詳しい場所までは分からない。
なんとか二か所に絞れたけれど、でもそこから先はあたしたちが自分の足で探すしかない。
オタクロスがもう少し頑張ってくれればなあと思いつつ、あたしとバン、オタクロス。
それからヒロ、ジェシカ、ジンで二手に分かれて行動することになった。

「ラン! あんまり余所見してると、人とぶつかるよ」

後ろからバンの心配そうな声が聞こえてくる。
あたしはバンよりも先をどんどん進みながら、バンの方に振り向いた。
バンとだいぶ距離があるから、あたしは声を張り上げる。

「大丈夫だって、バン。
あたし、運動神経良いんだから、すぐに避けられる――って、うわっ!?」

「わっ!」

バンの方を向いていたからか、自分で言っておきながら、誰かにぶつかってしまう。
手に持っていたガイドマップは宙を舞って、あたしはバランスを崩した。

お互いに驚いて尻餅をついたけれど、あっちの方があたしよりも早く立ち上がる。

そして、慌てたようにあたしに手を伸ばした。

「ごめんなさい!
大丈夫ですか?」

見上げると、最初に目に入ったのは青い眼。
次に薄い色の髪に、病気なんじゃないかと思うような白い肌。
あと、なんか服の隙間から見える腕が細い。

「あ、ううん! 大丈夫!
あたしが余所見してたのが悪いんだし、そっちこそ怪我はない?」

あたしはそう言いながら、相手の手を取って立ち上がる。
意外にも力は強くて、難なく立ち上がることが出来た。

立ち上がって手を離し、向かい合ってみると相手の身長が予想以上に低いことに気づく。

あたしよりも低いと思っていると、相手は柔らかく笑った。

「そうですか。良かった……。
そうだ、これ、落としましたよ」

安心したように言って、あたしに拾っていたらしいガイドマップを差し出す。
あたしがお礼を言ってそれを受け取ると、もう一度笑った。

「それじゃあ、私はこれで。
ぶつかって、すみませんでした」

青色の瞳を緩めて、何回も頭を提げながら、人の間を器用にすり抜けて行く。
その動きに感心していると、その子はあるアトラクションの方に向かう。

その列に並んでいた黒髪に青色の目をした女の人に話し掛けると、二人して列を後にしてどこかに行ってしまった。

姉妹かな。目の色が同じだし。

「ラン! 大丈夫だったか?」

「うん。平気。
ちょっとこけただけだからさ」

人を掻き分けてやって来たバンにあたしはそう言って、あははと情けないなと思いながら笑った。
バンが言ったように余所見してたからこけたんだから。

「それよりもさ! 早く司令コンピュータを見つけに行こう!
行くよ! バン、オタクロス!」

あたしはガイドマップを適当に鞄の中に仕舞うと、バンとオタクロスよりも先に駆け出した。




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