37.輝くあの場所へ
「それで? ジャバウォック、どういうふうにカスタマイズしたんだ?」
「全体的に軽くしてみた。
武器も形を変えずに軽くなるように…」
「ふむふむ。なるほど。ま、いいんじゃね」
「じゃあ、これで」
「おう。それで」
小気味良い会話が目の前でされる。
信頼からか、それとも彼の適当さから来るものか、ジャバウォックのカスタマイズを一瞥して興味を隣に座っていたバン君へと移した。
「こんな奴のどこが気に入ったの?」とランが不満そうに訊くと、ヨルはまさか「お願い」されたからと説明するわけにもいかず、青い瞳を思案気に曇らせる。
本当のことを言ったとして、容易に理解するには全部話す必要性が少なからず出て来るから、余計だろう。
「こう…猫を躱すみたいな、感じ?
猫触ったことも抱いたこともないけど、そんな感じがする。
あとは感覚で、かっちり…」
関節部分を見ていたジャバウォックの左腕をカチッと嵌めながら、ヨルは言う。
ジャバウォックは全体的に無骨さを失くし、スタンダードなストライダーフレームに纏まっている。
全体的に見れば、ティンカー・ベルに比較的近いか。
「そんな理由で?」
「うん。でも、ちゃんとバトルもしたし、見たし…だから、相性は良いと思う。
ランだって、気に入らない人ならチームを組みたいとは思わないでしょ?
だから、大丈夫だよ。
それにアスカは…細かいことを気にしないから、ちょっと…楽かなって。
これは…なんだろうね。
でも、うん、大丈夫だよ」
ヨルは青い瞳を柔らかく細めて言った。
青い瞳は雄弁だ。
彼女の場合は言葉よりも説得力がある。
ランはヨルの眼を見て、「うっ…」と言葉を詰まらせて、隣のジェシカの様子を窺った。
ジェシカは「ま、大丈夫でしょ」とバン君を質問攻めにするアスカを一瞥する。
盗んだ云々の時はどうかと思ったが、今のアスカは純粋そのものだ。
ただ単に考えるよりも行動が先に来る性質なのだろう。
「分かった! でも、予選で当たったら、容赦しないからね!
あたしとヒロとユウヤで全力でやっつけてやるんだから!」
「もちろん」
びしっと人差し指をヨルの鼻先に突き出す。
ヨルはそれに笑顔で言葉を返した。
その後はただの雑談だ。
どこで会ったのか、どんなバトルをしたのか。
さすがに敵同士だから、ヨルはのらりくらりと自分たちの不利になるようなことは躱していく。
その様子をトリトーンのチェックを淡々としながら、ぼんやりと見やる。
会話は郷田と仙道が来るまで続いた。
Aブロックの予選に出るために、アスカが立ち上がる。
「それじゃあ、みんなを代表して一番バッター行ってくるから!」
アスカはそう言うと、持っていたトマトジュースの缶を勢いよく煽る。
ヨルはその横で深く長く深呼吸をした。
それから、瞬きを一度だけ。
かちり、と何かを入れ替えるかのような、儀式めいた雰囲気があった。
「ぷはあ! ヨルも飲むか?」
「いらない。もう一本貰ったから」
「たった一本じゃん。まだ飲めるだろ?」
「いらないよ」
はっきりと首を横に振ったヨルに「ちぇっ」と軽く舌打ちすると、アスカはまだ中身が残っているのだろう缶をユウヤの前に差し出した。
「うえっ? あの…」
「あげる」
簡潔にそれだけを言うと、アスカは階段を下りる。
「私も行ってきます」
眩しいのか、青い瞳を少し細めながら、ヨルは僕たちに向かって言った。
タタンと音をさせ、亜麻色の髪を揺らしながら、アスカの後に続く。
その際、彼女は自分のCCMを少し掲げてみせる。
やるべきことを忘れていないというヨルなりの合図だろう。
彼女のその動作にジェシカが軽く手を挙げることで応えた。
「……ヨルの言ったこと、信じてない訳じゃないけど、やっぱりアスカって変な奴!」
「あはは…。ちょっと変わってますよね、アスカさん」
頬を膨らませるランにヒロが渇いた笑いを漏らす。
僕は視線をランたちから階下のヨルたちに移した。
やっとアスカに追いついたヨルが肩を竦めながら、彼と何か話しながら、通路の先へと消えていく。
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ぐいぐいと引っ張られて出た先はとても明るい場所で、こんなのだったかな、と首を傾げるしかなかった。
「足引っ張るなよ!」
アスカは羨ましいを通り越して、もう恨めしくなってしまうほどの清々しい笑顔で言った。
私はその笑顔に呆然としてしまう。
眩しくて、どうしようもなくて、色々な言葉が頭の中を駆け巡った。
過去の色々なことも、一緒に。
ここにまた立つまで、やっぱり失くしたものが多すぎた。
それを思い出して、まだ何も始まっていないけれど、終わったような錯覚に陥りそうになる。
「行こうぜ! ヨル!」
その言葉と一緒に、アスカが思いっきり私の背中を叩く。
ヒリヒリと鈍い痛みが走って……でも、目が醒めたような気がした。
だから、私は不敵に笑ってみる。
久しぶりにとても上手く笑えているような気がした。
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