33.おかしなふたり


目の前に出て来たし、何か知らないけれど、オレのことを助けようとしてくれたみたいだったから。

まあ、そんな理由でこいつは味方だろうと判断して、タッグを組むことにした。

オレ一人でも勝てる!
LBXを見れば分かる。
あれは整備があまりされていない、ずっと戦いっぱなしのLBXにありがちの摩耗をしていた。

数は合わせるのは、まあ、ハンデってやつだ。
それに誰がタッグでも、あんまし関係ない。

Dキューブを投げて、ジオラマを展開させる。
隣にいた奴はちらっとオレの方を見て言った。

「連携の打ち合わせとか…しないの?」

「いらないだろ」

俺がそう言うと、そいつは「そっか」と小さく呟いた。
特に反論はないらしく、自分のLBXを服のポケットから取り出した。

オレも自分のLBXをジオラマの中に入れるために構えた。

「いくぜ! ヴァンパイアキャット!」

「ジャバウォック!」

意外にも同時にジオラマに二体のLBXが降り立った。
ヴァンパイアキャットの横にいるのは、青と黒のカラーリングのLBX。
武器はヴァンパイアキャットと同じ槍だ。
あっちの方がLBXの体に似合わず、かなり重そうだったけど。

相手のLBXはどっちもブルド。
武器は…ハンマーと片手銃。
……よしっ!

「じゃ、まかせたから!」

「バトルスタート」の掛け声と共にオレはそう言った。
ヴァンパイアキャットの軽いフットワークを利用して、ぴょんと二体のブルドの後ろに跳んだ。

相手側から「なっ!?」とか「ふざけんなっ!」とか聞こえてきたけど、そんなのは気にしない。

オレは隣の奴からも抗議の声が出ると思ったけど、意外にも一度オレの顔を見ただけで、ふいっと視線をジオラマの中に戻した。

すう、はあ…という短い深呼吸。

そして一緒にジャバウォックとかいうLBXが武器を構え直す。

「………了解」

迫ってくる二体のLBXに向かって、ジャバウォックが走り出した。


■■■


「ほい。やる」

「……ありがとう」

鞄から出したトマトジュースの缶を渡すと、そいつは思い出したと言うようにポケットの中を探り出した。
そこからオレがさっき落としたトマトジュースの缶を取り出した。

「これ、落としてたよ」

「ん…」と缶を差し出されたが、もちろんいらない。

「いや、いらない…っていうか、普通捨てるだろ」

「まだちょっと残ってるよ?」

そいつがちゃぽんと缶を揺らして、中身が入っていることをオレに確認させた。
いやいや、とオレは首を振る。

「飲まないって」

「じゃあ、捨てていいの?」

その質問にオレが頷くと、そいつは「分かった」と言って、一番近くにあったゴミ箱に視線をやる。
しばらく無言でゴミ箱を見てから、キリキリっと音がしそうな鈍い動作で腕を上げて、缶を投げた。

ガコンっと良い音を立てて、缶がゴミ箱に入る。

「普通さー、残ってても飲まないって。あんなの」

「お腹が空いてれば、飲むんじゃないかな。
お腹に溜まるし」

「ええー…」

どういう生活してたら、そんな言葉が出て来るんだよ。
オレが引いていると、「…やらないよ」とオレの心を読んだように言った。

それから、こんこんと自分の顔を指で叩く。

「顔に出てる」

ものすごくドライな奴だなあ、という雰囲気の喋り方だった。
声はここに来た時からギラギラと輝いてる太陽に比べて、温度が低い。
表情はすごく硬い。

こいつ笑うのか?

そういう疑問が湧いてくるくらいの無表情。
オレの周りにこういう奴、いなかったなあ。

そう思っていると、そいつはプシッと缶を開けた。
オレも同じように開けて、ぐぐっと飲んだ。

「ぷはーっ。勝利の後のこれは上手い!」

一気に半分ぐらい飲んだオレに対して……

くんくん。

トマトジュースの匂いを嗅いでから、ちびちびと飲み出した。
ものすごい異界の飲み物でも飲むみたいな飲み方だった。

「もっとぐいっていけよ」

「変な味の飲み物だね。口の中がトマトの味でいっぱい…。
ぐいっとは……無理かな」

それでも飲むのか…。

まあ、それはいいとして……。
オレは手を差し出しながら、言った。

「オレは古城アスカ。さっきはありがとな!
お前、名前なんていうんだ?」

「…どういたしまして、というか、私も原因の一つだし。
えっと……名前は…あ、雨宮ヨルです。よろしく」

ヨルは一度ピタッと静止してから、オレと握手する。

さっきのバトルはオレたちの勝利で終わった。
上手くブルド二体を引き付けたヨルのジャバウォックを利用して、ヴァンパイアキャットが止めを刺して、俺たちの勝ちだ。

きっちりあいつらに謝らせたし!

「お前さ、『アルテミス』の出場者?」

「違う。
今回は…友達の付添? みたいな…当日会場には行くけど、観客。
友達は出るよ」

「その友達のサポートメンバーには?」

「誘われたけど、人数的に割り切れなくて。
ジ……友達が出場権を持っているから、チームをもう少し分けようって話にもなったけど、どんな相手が来るか分からないから、断った。
私、初見の相手には弱いから」

「そうなのか?」

「そう」

初見の相手…って、さっきの二人も初見じゃないのか?

その割にはブルドの武器を受け止めた動きは良かったし、ヴァンパイアキャットに攻撃しやすい位置に誘導してた。
攻撃しやすかったなあとしみじみと思い出す。

「お前、サポートの方が得意だろ?」

「うん。後方支援が得意。
後は……前衛でバーンってされる方?」

「うーん……」

それにしたって、戦いやすかった。
後方支援の方がやりやすいっていうのは、さっきのバトルで分かる。

今までタッグを組んだ奴は何人もいたけど、弟とも組んだことがあるけど、一番戦いやすい動きをしてくれてた。
というか、動いてて、楽で楽しかったんだよな〜、うん。

俺は色々と考えて、ぐいっとトマトジュースを煽った。

「なあ! 頼みがあるんだけど……」

「?」




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