31.夜明けが見える
ジオラマの中からLBXを拾い上げる。
なるべく優しく手に取ったつもりだったけれど、フレームに更にひびが入ったような音がした。
「……よく頑張ったね」
ぼそりと拾い上げたジャバウォックにそう呟いた。
ジャバウォックは傷ついて、ボロボロ。
ペルセウスの武器で貫かれた胸部は中の配線が見えている。
両腕はどちらもひびが入って、しばらくは使えない。
替えのパーツがどのくらい必要なのかを少しだけ考えてから、私はまだ呆けているヒロに向き直った。
「優勝おめでとう、ヒロ」
歓声が雨のように降ってくる中、私はヒロにそう言った。
ヒロは一瞬だけ面喰ったような顔をしていたけれど、次の瞬間には彼は満面の笑みを浮かべる。
そして、ヒロが言った。
「はい! ありがとうございます! ヨルさん」
■■■
「アングラテキサス」の優勝者はヒロ。
彼の手にはさっきマダム・ブルホーンから渡された、「アルテミス」への出場権が入った筒が握られている。
ヒロはそれをとても誇らしげに持っていた。
その様子を彼の一歩後ろで見ていた私とヨルは互いに見つめ合って、そして肩をすくめる。
くすり、とヨルはバトルの時とは違う笑顔で笑った。
私は拳を握って、それで軽くヨルの肩を叩く。
「お疲れ様、ヨル。
ジャバウォックのあの武器、すごかったわ」
「ジェシカもお疲れ。
二丁拳銃、もう少しで危なかった」
決勝戦前の「どうして、楽しいのか」の答えが少しぐらい分かったのかしら。
私はさっきのヒロの言葉を思い出す。
「僕、最強の武器はどんな状況でも諦めない心だと思っていました。
でも、普段とは違うあのジャバウォックと戦って、それだけじゃダメなんだと分かりました。
一瞬の判断力や優れた技術が伴ってこそ、諦めない心が意味を持つって、知ることが出来て良かったです!
LBXって、楽しいだけじゃなく、色々なことが学べるんですね!
僕、今まで以上にLBXが好きになりました!」
そう言ったヒロの言葉を、ヨルは柔らかい笑顔で聞いていた。
実際どう思っているのかは分からないけれど、何か変化があったのは確かなはず。
「ヨル。
バトル、楽しかった?」
私がそう訊くと、ヨルは少しつくったような…それでも自然な笑みを浮かべた。
つくったように感じたのは、まだ気持ちが付いていっていないからか。
まあ、ついさっきまでの悩みがもう消えているなんて、そっちの方が怖いわよね。
私はそう思って、ヨルの答えを待つ。
「……楽しかったと思う。
バン君に言われたように、何も考えずに自由にバトルして、やりたかったことが出来た気がする。
アミちゃんたちとは自由にバトルしてたつもりだったけど……。
それとはまた違う気がしたんだ。
負けちゃったけど……うん、楽しかったよ。ジェシカ」
何か満足したように、ヨルは笑う。
こんな笑みも出来たのね。
そう思うと同時にバトル中の不敵な笑みも思い出した。
思い出すと、少しだけ腹立たしい。
こういう気分にさせることが目的ならば、完璧と言える不敵な笑み。
素直にすごいと思ってしまう。
あんなふうに私は出来るかしら。
そう思っていると、ジンがこちらをじっと見ているのに気づいた。
ヨルの言葉を彼はどう受け止めたのか。
複雑な表情でこっちを、ヨルを見ていた。
何も言うことはなく、こっちによって来ようともしないけれど、ヨルのことを心配しているのがよく分かる。
「……全く。
どっちもどっち、ね」
私は嘆息混じりにそう言った。
「さて、と!
色々あったけど、『NICS』に帰りましょう!」
溜め息を全部吐き出してから、私は言った。
まあ、とりあえずは帰って、LBXの整備でもしましょう。
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