30.ジャバウォック、強襲


ジャバウォックの強力な一撃がジャンヌDをブレイクオーバーに追い込んだ。
いとも容易く空中に投げ出されると、ブレイクオーバーの音をさせ、そのまま倒れ伏した。

歓声が沸く。
会場が揺れる程の歓声はバトルステージにも届いてはいるはずだが、ヨルは深呼吸を一度しただけで、その視線をペルセウスの方へと移しただけだ。

口元には不敵な笑みを浮かべている。

「バン君はあの武器のことを知っていたのか?」

隣にいたバン君にそう訊いた。
彼はバトルステージの様子を見ながら、首を横に振る。

「いや、俺はどのぐらいならLBXのバランスが良いか訊かれたぐらいで、それ以上は知らなかったよ。
それにしても、あの武器、すごい威力だな」

「そうなのか」

彼の言う通り、あの武器の威力は凄まじい。
LBXに対してバランスが悪いのが多少気になるが、威力は申し分ない。

漸く動くようになったペルセウスに向かって、ジャバウォックが走り出す。

あの爪の威力はペルセウスであっても、一撃でブレイクオーバーも有り得る。
ヒロもそれは十分に分かっているのだろう。

振り下ろされた爪をギリギリのところで、ペルセウスが受け止める。
金属と金属の擦れる嫌な音がした。

ペルセウスとジャバウォックの攻防が続く。
次々と振り下ろされる爪をペルセウスが受け止め、その度にペルセウスが後退する。

ヒロに焦りの表情が浮かぶが、同時にヨルも眉をぴくりと小さく動かした。

「……?」

その反応を少しばかり訝しむ。

「なあ、ジン。
なんか、ジャバウォックの動き、変じゃないか?」

「え?」

バン君の言葉に僕は目を凝らして、二体のLBXの動きを見る。

それは微細な変化だったけれども、確かにジャバウォックの動きがおかしい。
いや……ペルセウスの動きが格段に良くなってきている。
後退する距離が縮んでいる。
ジャバウォックの一撃に耐えられるように、上手く攻撃を流していた。

ジャバウォックの動きより少しだけ早く、ペルセウスが動き始めている。
じりじりと、ジャバウォックの方が追い込まれ始めていた。

「今はジャバウォックの方が勝っているけれど……時間の問題だな」

「ああ。そうだね」

ジャバウォックがペルセウスに決定的な一撃を与えられずにいる。

一見すれば、ジャバウォックの方が有利に見える。
しかし、武器の重さとその大きさでどうにかペルセウスのスピードに追い付いている。

バン君の言うように、負けるのは時間の問題だ。

ここからどうする、ヨル。


■■■


ペルセウスの動きが冴えている。

動けば動くほど、ジャバウォックの動きが読まれているのが分かる。
今のところはこの武器の重さと振り回した時のスピード、それから攻撃範囲の広さでどうにかなっているけど、もうあまり持たない。

すぐに隙を狙われる。

私はすう、と…細く息を吸った。

ジャバウォックの右腕を大きく振り上げて、ペルセウスに叩きつける。
けど、あっちの動きの方が速かった。

連続して攻撃していたからこそペルセウスの動きを封じていた。
それを止めたことで、ペルセウスに攻撃する隙を与えてしまう。

「そこです!」

攻撃を避けられた瞬間に、ペルセウスの武器が振り下ろされる。
その攻撃を左腕で受け止めたつもりだったけれど……

「……っ!」

ジャバウォックの五本あった指の三本が飛ぶ。

なんて威力。さすが山野博士が造ったLBX。
ヒロの狙いも鋭い。
綺麗に武器の関節、構造的に弱い部分を正確に狙っていた。

でも……!

「あっ!」

残った二本でペルセウスソードを挟み、地面に叩きつける。
右腕を地面から浮かせ、右足でペルセウスの機体の蹴りを叩き込んだ。

「ペルセウス!」


渾身の力で蹴ったはずだけれど、それでもペルセウスをそこまで引き離すことが出来なかった。
すぐにジャバウォックを立ち上がらせ、限界の近い左手で拳を握って、ペルセウスを殴る。

「そう簡単にはいきません!」

ヒロはそう叫んで、ジャバウォックよりも体勢を低くした。
ジャバウォックの下から腕を切られる。
重い腕が土埃を上げて、ジャバウォックの後方に落ちた。

途端にバランスが悪くなる。

右側にジャバウォックの足がふらつき、バランスを保つのが難しい。
ペルセウスが迫ってくるのが見える。

当たらないと分かっていたけれど、ジャバウォックの右腕を思いきりペルセウスに向けて振った。
その重さに機体が持っていかれて、くるりとそのまま機体が回転する。
それを利用して、ジャバウォックの尻尾をペルセウスに叩きつけた。

ペルセウスが一瞬だけ後退する。
その隙にジャバウォックの機体をどうにか動かした。

私はぎりっと奥歯を噛む。

「まだ……っ!」

そして右腕を振り上げ、ペルセウスに叩きつけた。


■■■


ジオラマ内が音を立てて、震えた。
ジャバウォックの右腕が落ちた音だ。

すごく重くて、速い武器だった。

でも、もう両腕のどちらも残っていない。

それでもジャバウォックは動きを止めなかった。
突っ込んでくるジャバウォック。
その胸に僕はペルセウスソードを、エルシオンの武器を使った時のように手首を捻って、深々と突き刺した。

バチバチと火花を散らして、ジャバウォックが静止する。

その瞬間、わっと歓声が蘇ってきた。

「勝った……!」

音が蘇って、僕はやっと大きく息を吐くことが出来た。
拳を握って、勝利を噛み締める。

そんな僕に対して、ヨルさんはジオラマの中のペルセウスとジャバウォックを見ている。

「……お見事」

そして、満足したように溜め息を吐いて、ヨルさんは静かにそう言った。

同時にパチン、とCCMを閉じた。





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