27.心はどこにあると思う?
「どうして」と問われた時、私の方が「どうして?」と思った。
どうして、LBXが楽しいのか。
どうしたら、楽しくなれるのか。
そんなこと、考えたこともなかった。
バトルで勝った時は嬉しいし、楽しい。
ジャンヌDが傷つけば、どうやったら元通りにしてあげられるか、悩んだ日もあったわね。
そう思い出して、私はランがヨルのバトルは楽しそうじゃないと言った時のことを思い出す。
多分、それは私も感じていたことだ。
ヨルはジャバウォックが傷ついても、悲しそうにも悔しそうにもしなかった。
私の印象に頼っても良いのなら、それはLBXが傷ついても、どうでもいいみたいだったわ。
ヒロやバンとはまるで正反対ね。
彼らのバトルにはLBXへの思いを感じる。
楽しいとか嬉しいとか、そんな当たり前の感情。
ヨルからはそれをあまり感じない。
彼女のバトルには観察力や意外性はあっても、心がない、と感じてしまう。
ビリーとのバトルも、そう。
反撃せずに逃げていた時のバトルは、熱がなかった。
勝つ気がなかったの?
まさか。
普通なら、そんなことは考えない。
それにそれだと、後半の反撃の説明がつかなくなるわ。
「…………」
隣にいるジンはヨルの青い瞳を見つめ返し、すいっと彼女に近づいた。
彼女の目の前に立って、何か二、三言呟く。
ヨルはジンを見上げて、どこか淡白な笑みを浮かべる。
そして、緩く首を横に振った。
「?」
何を言ったのかしら。
私の疑問をよそに、ジンはヨルから視線を上げると、彼は私へと向き直った。
「すまない、ジェシカ。
先にヨルと戻っていてくれ」
「え? ええ、良いわよ」
私がそう答えると、ジンは一つ頷いて、ヨルの脇を通ってどこかへと行ってしまう。
この場には私とヨルだけが残される。
私はそれを目で追いながら、ヨルに近づいた。
「ねえ、ヨル。
ジンはさっき、なんて言っていたの?」
「………君の問いに対する答えは、僕では出せない、すまないって。
うん、当たり前だよね。
自分で言ってても、自分で分かるしかないって分かってたのに。
ジンには……悪いことしたな。
ジェシカもごめんね。
変な質問した。ごめんなさい」
ヨルは微笑みながら、丁寧に謝った。
私は「別にいいわよ」と答える。
LBXについて、少し考えるきっかけになったかもしれないし、ヨルにすれば真剣な悩みのはず。
私も出来れば答えたいけれど、こればっかりは少し難しい。
元々理屈で語って良いことでもないような気がする。
自分の中でぼんやりしているけど、私の中に答えはあって、でも言葉にするのは難しいわね。
ヨルの言ったように、自分で分かるしかないのかもしれない。
「難しいわね、本当に」
私はそう呟いてから、ヨルと一緒に階段を下りる。
淡々と軽い足音が私の後に続いた。
■■■
「そんなことがあったんですね。
『どうして、楽しいのか』ですか。
……うーん、僕にもそれは難しいです。
単純にLBXをやっていて楽しい、では駄目なんでしょうか?」
「そうよね。
私もそうは思うんだけど、ヨルはまた違うというか……。
もっと別のところに理由がありそうね」
勘だけれど、ね。
まあ、私はヨルと会って間もないから、変なことは言えない。
「そうなんですか、僕はそういうことはさっぱりで……。
ジェシカさんはよく分かりますね」
「女の勘ってやつよ、ヒロ」
ちらり、とヨルを横目で見ながら言った。
私はさっきまでの話をバンとヒロに話していた。
もちろん、ヨルに断りを入れてから。
途中でバンは何かを察したのか、ヨルの方へと行ってしまったけれど。
そのヨルはジャバウォックを整備していた。
今は吹き飛んだ左腕の替えのパーツを見ながら、じいっと考え込んでいる。
「結構、胴体部分も損傷してるな。
パーツがあるようなら、ここも交換した方が良いんじゃないか?」
「うん。そっちはこれから予備に交換する。
むしろ左腕の方が……」
その横でバンが少しだけアドバイスをしていた。
ヨルにはコーチがここにはいない訳だから、代わりみたいなものかしら。
アミの戦い方はバンの方がジンやユウヤよりもよく知っているからかもしれない。
それにしても、あまりこのことをヨルが引きずらなければいいのだけれど……。
次は決勝戦。
私とヨルはすでに決勝戦へ駒を進め、残りの一枠は主催者の計らいでヒロとランが争うことになった。
ヒロは複雑だと言っていたけれど、面白いバトルになりそうな予感がする。
肝心のランは分からないけれど、ヒロの準備はもう終わっている。
まあ、だからこそ、ヒロたちにヨルの話を出来たのだけれど。
決勝戦でさっきのことを引きずって、手加減されたバトルはされたくない。
それはこれからバトルするヒロやランも同じのはず。
だから、なるべくなら、ここでヨルの悩みを解決しておきたいというのが、私の本音だった。
「あのさ、ヨル―――」
ジャバウォックの整備を終えようとしていたヨルに、バンが口を開く。
その目が……そうね。
まるで妹を心配するみたいな、そういう目をしていて、へえ……と思った。
何を言うのかしら。
そう思っていると、遠くからユウヤの声が聞こえてきた。
「みんなー!」
ユウヤの少しだけ切羽詰った声で、バンの言葉は途切れ、結局彼が何を言おうとしたのか分からなかった。
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