24.羨望

やっぱり、普段よりもジャバウォックの動きが軽い。

動きが軽すぎて、いつもの調子でいくと、思った以上にLBXが動いてしまう。
だからといって、慎重にすると攻撃が浅くなる。
なかなか加減が難しい。

それでも、相手のLBXに大振りな動きが多くて助かった。
時間は掛かったけど、細かいダメージを与えることでどうにかなった。

《6番ステージウィナー、雨宮ヨル》

ふう、と溜め息を吐いてから、ジオラマの中のジャバウォックを拾い上げて、バトルステージを後にする。

バトル中は他のバトルステージの様子を見ることは出来ない。
予想通り時間が掛かったから、一回戦は私が最後だろうと思っていると、空中に浮かぶ画面の中でジャンヌDがまだ戦っていた。

「……癖、強いなあ。あのブルド」

映像を見て、一人呟く。

相手のLBXであるブルドにおされているジャンヌDを横目で見ながら、先にバトルを終えていたヒロたちに近づいた。

「あ、ヨルさん!」

「遅かったじゃん。
ちょっとおされてたけど、大丈夫だった?」

「うん、どうにか。
私よりもジェシカの方が……。
ジャンヌDの機動力なら、私よりもずっと早く終わってるはずなのに」

ジオラマも隠れる場所が多いし、ブルドの攻撃を防ぐのは難しくない。
相手のブルドの動きも少し癖が強い。
ジェシカだったら、気づくはずなのに。

それなのに、ジャンヌDの方がおされている。
追いつめられて、余裕がない。

ジェシカにはジンがコーチに付いている。
この状況を彼が考えていなかったとは思えない。

そのうちにジャンヌDは壁際に追い詰められ、ブルドのショットガンの弾が直撃する。

「ジェシカさん!」

ヒロが叫ぶ。

ジャンヌDからはバチバチと火花が飛んでいて、あと一撃受ければ、負けてしまう。

その考えが頭を過ぎったけれど、次の瞬間、ジャンヌDの動きが変わる。
格段に動きが良くなったのだ。

ブルドのショットガンを躱す。
シーホースアンカーの扱いも動くたびに様になっていく。
トリトーンの動きじゃなくて、ジャンヌDの機動力を活かした動き。

ブルドがジャンヌDの動きに付いていけていない。
加えて、癖も完全に見抜かれている。
攻撃は全部避けているから、私が見逃している癖も全部。

あれなら、ブルドはもう反撃できない。

「すごい!」

「おお! やるじゃん!」

相手のブルドをどんどんと追いつめ、ジャンヌDはブルドの攻撃を軽く避け続ける。
そして、遂にブルドのショットガンが球切れになる。

そこをジャンヌDは見逃さなかった。

複雑に絡む太いパイプの間から、綺麗にシーホースアンカーが振り下ろされる。

《1番ステージウィナー、ジェシカ・カイオス》

「逆転勝利です!」

「やったな! ジェシカ!」

ヒロとバン君が嬉しそうにそう叫んだ。
ランとユウヤも嬉しそうに笑う。
私も安堵の溜め息を漏らした。

良かった。ジェシカが勝てて……。

そう思っていると、1番ステージからジェシカが下りてくる。

ヒロとランは誰よりも早くジェシカに駆け寄った。

「やりましたね! ジェシカさん!」

「ちょっと危なかったんじゃない?」

「あれぐらいどうってことないわ」

ジェシカは本当に自慢げに、楽しそうに言った。

腕を組み、一つ頷くその姿に良いなあと思う。
羨ましい。
本当に、心から。

そう思うと、足が動かなくて、ヒロやランと同じようにジェシカに駆け寄ることは出来なかった。

なんだか、ジェシカたちに申し訳ないような気がして。

私がそうしていると、ジェシカの後から下りてきたジンと目が合った。
どうにか笑顔をつくる。

「君も勝ったのか?」

「うん。どうにか。
それよりもジェシカのバトル、すごかったよ。
途中から、とてもジェシカらしかった」

私がそう言うと、ジンは満足そうに頷く。
彼の表情を見て、さっきよりも足が動かなくなったような気がした。

ジャンヌDの動きはとてもジェシカらしかった。

動きが計算されてて、攻撃の避け方が綺麗で……本人が楽しそうなのが伝わってくる。
余裕を取り戻したことがよく分かった。

あんなバトルを私も出来たらいいのに。




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