18.きらめきは声


「あたし、ヨルのバトルを見てみたいし、たくさんバトル出来て楽しいって!
『アングラテキサス』出場しようよ!
それとも、出れない理由があるわけ?」

あたしが拳をぐっと握りながらそう力説して、ヨルに顔を近づける。
鼻と鼻がくっつくんじゃないかと思ったけど、そんなこと気にしてられない!

だって、世界で最も危険なルール無用のLBX大会!
あたしは今までそういう大会に出たことがない。

あたしの知らない世界がある。

それをミネルバと一緒に体験していくなんて、すごく楽しそうでわくわくする。

「出れない理由はないけど……」

手であたしを押し戻すようにしながら、ヨルは何故かすごく言い難そうに言った。

あたしにはヨルが言い難そうにする理由が分からない。
それほど悩まなくてもいいと思うけどなあ。

「ラン君。
ヨル君にも事情があるんだし、あんまり強引に誘うのは……」

ヨルの後ろにいたユウヤがあたしに言う。
あたしはそんなユウヤを睨み付けた。

「だって修行だよ?
ヨルは『アルテミス』の出場権を持ってないんだし、丁度良いじゃん」

「まあ、確かにそうですね」

ヒロはなんだか腑に落ちないという感じだったけれど、同意してくれる。
けど、予想外のところから思い掛けない言葉が飛んで来た。

「別に出なくてもいいデヨ〜。
そいつはランたんたちよりも胆は据わっておるデヨ。
正直なところ、潜った修羅場の数だけなら、ヨルは一番上かもしれんからの」

「えぇ〜……」

まさかオタクロスが否定するなんて……。

というか、「潜って来た修羅場の数なら一番上」ってどういうことなんだろう。

バンとジンはその言葉に少しだけ視線をヨルから逸らしたのも気になる。

見たところ、ヨルはそんなに強そうに見えない。

全体的に色が薄いから弱そうに見えるし、必要な分の肉が付いている感じもしない。
運動してるのかなーという感じがしない訳じゃないけど、いざとなったら肉体的には弱そうだ。
ぶつかった時もあたしの方は大して痛くもなかったのを思い出す。

バンからLBXは「強い」とは聞いていたし、「イノベーター事件」の解決に協力したって話だけど、そんなに修羅場を潜ってきたとは思えなかった。
緊張感が思った以上にないからかもしれない。

ヨルは何故だかオタクロスの言葉に何でもなさそうに瞬きをしただけだった。

本人と周囲とでなんかすごい温度差。
なんだろう、これ。

「それなら、ヨルの意志を優先するべきね。
ヨル、貴女はどうしたいの?」

「私は……」

ジェシカがウィンクをしながら、ヨルに訊いた。

ヨルはジェシカの顔を見て、あたしの顔を見て、それからバンたちを少しだけ見ると目を伏せる。
ジェシカよりも色が違う青い瞳を微かに揺らす。

人間の瞳ってこんなふうに動くんだなと思いながら、まだかなと待っていると不意にヨルが顔を上げた。

「『アングラテキサス』、出るよ。
LBX大会にはここ一年出てなかったから、ジャバウォックの性能も試したいし、自分がどこまで役に立つのか試してみたいから」

大袈裟なまでの決意を込めるようにして、ヨルは言った。

「よし! 決まり!」

私はガッツポーズを決める。

オタクロスは「分かったデヨ〜」と気のない返事をして、バンやユウヤはなんだかほっとしたような顔をした。

その後ろではジンもどこかほっとしたように、ジンにしては優しい目でヨルを見ているような気がした。

「それにしても、大変ね。
『アングラテキサス』なんて怪しい大会に出てまで、強くなりたいなんて……」

私がやる気を出していると、ジェシカがそんな覇気のないことを言う。
まあ、確かにジェシカの力は認めるけど…。
そう思っていると、オタクロスが意気揚々と言う。

「ジェシカたんも出るデヨ」

「はあ! なんで私まで!?」

「全員が同じ経験をしておくことは重要だ。
今後の作戦にも役立つだろう」

「パパっ!?」

ジェシカが信じられないと言うように叫ぶ。
まあ、長官にまで同意されたら、そうなるか。

身を乗り出すジェシカにカイオス長官は続けて言う。

「ジェシカ! お前も出場しなさい。
これは命令だ」

「……親バカ〜っ!」

ジェシカは悔しそうな顔をして言った。
あたしとヒロはそれに苦笑いを浮かべたけど、ヨルはなんというか無表情でジェシカとカイオス長官を見ていて、少しだけぞわっとする。

でもそれは本当に一瞬で、あたしが瞬きするとヨルも「あはは…」と呆れたような笑みを浮かべていた。

「とはいえ、ただバトルをしても強くはなれない。
……ということで、バン、ジン、ユウヤ。
おまいらがコーチになって鍛えてやるデヨ!」

「俺たちがコーチ?」

オタクロスの言葉にあたしたちの方も首を傾げる。
コーチって……うーん…。

「うん。分かったよ! オタクロス」

「では、早速!
それじゃあ、サクラがみんなのコーチを決めてあげる!
まずは〜ヒロ君とバン君!
次はランちゃんとユウヤ君!
最後は〜ジェシカちゃんとジン君!」

オタクロスはLBXを取り出して、大袈裟な動きと一緒に裏声で声まで付けて、どんどんとあたしたちのコーチを決めていく。

だけど、その中にヨルの名前がない。
人数的にはあぶれるのは分かるけど、ヨルは一人でやれってことなのか?

「私はコーチなんていらないわ!」

「だまらっしゃーい!
サクラちゃんの決めたことは絶対デヨ! 何人たりとも変えることはならんデヨ!」

「じゃあ、ヨルはどうするのよ!?
ヨルだけコーチなしって訳にはいかないでしょ!」

下から唾が飛ぶぐらいの勢いでオタクロスに叫ばれたけど、ジェシカはそれじゃあ怯まなかった。
すぐ後ろにいたヨルを指差して、オタクロスに問い詰める。

「あ! 僕も気になってました!
どうするんですか?」

ヒロもジェシカに続いて言った。
あたしも気になるので、オタクロスの返事を待つ。

オタクロスはジェシカに指を差されたままになっているヨルをちらりと見てから言った。

「そいつには、もうアミたんというすんばらし〜いコーチがいるから、別にいいデヨ。
実力も分かっておる。ヨルにコーチは不要デヨ。
ただし! アミたんの顔に泥を塗るようなことはは許さないデヨ!!」

つまりは勝てってことか。
ビシっと杖を向けられたヨルは驚いたように目を見開いた。
でも、すぐに引き攣った笑顔を浮かべて、仕方がないと言うふうに言うのだ。

「……が、頑張ります」

そう言ったヨルの隣では、「そんな〜…」と声を上げながらジェシカが落ち込んでいた。

……まあ、頑張れ。ジェシカ。





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