12.異国の歌を聴く


リニアに乗ってすぐにCCMを確認する。
何通かメールが届いていたので確認するが、ヨルからのものはない。

そのことに不安になり、安堵する自分がもどかしくて、嫌だった。

まだ、会えない。
僕にはヨルに会って、どう言葉を掛けて良いのかが、まだ分からない。
感情が揺蕩う青い瞳をまっすぐに見れるかどうか、分からないから。

苦々しい思いでCCMから顔を上げると、ちょうどユウヤが駅の売店から帰ってきたところだった。

「ユウヤ! Lマガ買えた?」

「うん。はい」

「サンキュー!」

彼はバン君に頼まれたLBXマガジンを渡しながら、自分の席に座る。
バン君は雑誌を受け取ると、それを楽しそうに読み始めた。

「ねえ、この列車の貨物車両にCryster Ingram社製の新型高性能CCMが積まれているみたいだよ」

「今度発売される次世代型CCMか」

「話は聞いたことがある」

「きっとすごい性能なんだろうなあ」

バン君はそう瞳を輝かせながら言った。

彼の言葉の後、すぐにリニアの発車ベルが鳴る。
けたたましい音が響くと、扉の閉まる音がした。

そして、ゆっくりとリニアが走り出す。

同じようにゆっくりと流れていた景色は段々と加速していき、おびただしい程のビル群が遠ざかっていった。
流れるビルを少しだけ眺めてから、僕はシートに背を預けて、そっと目を閉じる。

柔らかな暗闇の中にじわりと光が微かに混ざる。
それが心地良かった。

《リニアエクスプレスのご利用、まことにありがとうございます。
リニア101号、Nシティ到着は八時間後の十九時を予定しております》

車内アナウンスが少しだけ遠く聞こえだした時、ユウヤの声が聞こえてきた。

「……今年の『アルテミス』って、どうなるのかな?」

ユウヤの言葉に僕は目を開き、彼の方を見る。
僕はCCMを開いて、「アルテミス」の招待状を開いた。

「招待状は既に届いてはいるが……」

これが確実に開催するという証拠になる訳ではない。

「LBXの暴走が世界中でこれだけ起こっているからな……」

バン君が雑誌から顔を上げ、そう言う。
眉を下げ、本当に残念そうだった。

「難しいよね…」

「いや、今年の『アルテミス』は通常通り開催される。
見てみろ、今日のトップニュースだ」

僕の隣に座っていた拓也さんはパソコンを操作し、僕たちにその画面を見せる。

ニュースサイトのその記事は「アルテミス」が予定通り開催されることが決定したと書かれていて、「アルテミス」のロゴの下には各LBX企業のロゴが並んでいた。

「本当だ! 良かったあ! 『アルテミス』開催されるんだ!」

「うん!」

バン君とユウヤはお互いに頷き合い、「アルテミス」の開催を喜ぶ。
僕は去年の「アルテミス」の決勝、それから準決勝のことを思い出す。

大変なことは多かったが、あの時のバトルは楽しかった。

バン君と一対一、アキレスとエンペラーM2で全力で戦ったこと。

それから、ヨルと…ティンカー・ベルとのバトル。

思い出し始めると、様々な記憶が引き出されていく。

会場の熱っぽい空気や観客の歓声。
バトルしている時のわくわくした感覚が鮮やかに蘇る。

それから……揺れる黒髪に青い瞳、涼やかな声も鮮やかに。

「でも、今年は出れないなあ」

「『ディテクター』との戦いがあるからね……」

そうだ。僕たちには「ディテクター」との戦いがあり、「アルテミス」に出ている暇はない。
招待状は来ているが、使うことはないだろう。

「おそらく、敢えて開催を決めたのだろうな」

「どういうことですか?」

「『アルテミス』の主催は『オメガダイン』だ。
開催することによって、Mチップの安全性を世の中に訴えることが出来る。
そう考えたに違いない」

なるほど。
そういう思惑があるのなら、「オメガダイン」が「アルテミス」を開催しようとするのも頷ける。

「『アルテミス』で何もなければ良いけど……」

拓也さんの意見にバン君が心配そうに言った。
僕もユウヤも彼の言葉に頷いていると、拓也さんが何事か声を上げた。

「ん? これは……」

何があったのだろう。

僕がパソコンの画面を覗き込むと、それが切り替わり、レーダーのような画面が現れる。
そこには赤い光点が二つ見えた。

「車両外で起動しているLBXがいる」

「LBX!?」

「まさか『ディテクター』!?」

その可能性に、僕たちは体を強張らせる。
しかし、拓也さんはその可能性を否定した。

「いや、ブレインジャックの反応はない。
数は二体。展望車両と貨物車両の連結部分だ」

「どうして、そんな所に……」

連結部分ということは、車両を切り離そうとしているのだろうか。

でも、どうして……。

「あっ…!
もしかして、『ワイルドバッジ』っていう強盗団かも!」

「強盗団!?」

「うん。出発する前、ホームで聞いたんだ。
LBXを使う列車強盗団がいるって!」

「本当か!?」

拓也さんの確認にユウヤが大きく頷く。

「まさかとは思うけど……」

「確認しよう」

本当に強盗団だとしたら、止めなければいけない。

僕が言うと、三人ほぼ同時に立ち上がる。

「頼んだぞ。
何か動きがあれば、連絡する」

拓也さんの言葉に僕たちは頷くことで答えると、リニアの走る向きとは反対側に歩き出した。





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