09.外の世界


外の世界にはこんなにたくさんの言葉があるんだなと、僕は驚いていた。

それから、こんなにたくさんの人たちがいるんだって。
一年前まで外の世界を知らなかった僕にとって、見るもの全てが新鮮で仕方がなかった。

でも、あまりそっちばかりに気を取られている訳にはいかない。
改めて、気持ちを引き締める。

僕たちは今、「オメガダイン」のすぐ側まで来ている。

「オメガダイン」で造られているMチップの開発データを調べるためだ。

「オメガダイン」の報告書では、Mチップとブレインジャックに因果関係はないとしている。
けれども、「オメガダイン」から政府に提出された報告書は、おそらく虚偽の報告書だ。

ブレインジャックはMチップを使うことで行われている。
僕たちはそう睨んでいて、それを調べるためには「オメガダイン」に乗り込んで、Mチップの開発データを調べるしかない。
そうすれば、真実が分かる。

途中まではヒロ君たちも一緒だったのだけれど、エジプトの方でブレインジャックが起こり、ヒロ君たちはそっちに向かった。
今ここにいるのは、僕にジン君、それからバン君に拓也さんだ。

「ターゲットは『オメガダイン』メインコンピュータの中にある、Mチップ開発記録だ。
それがあれば、Mチップとブレインジャックの関係を明らかにすることが出来る」

拓也さんはそう言いながら、僕たちにパソコンの画面から「オメガダイン」の見取り図を見せる。
青と赤に色分けされていて、青い部分が圧倒的に多いけれど……。

「青い部分が情報公開されているエリアだ。問題は…赤い部分だ」

画面が切り替わり、青色が姿を消して、赤色が強調される。

「何も書かれていない……」

ジン君の言う通り、青い部分にはそのエリアの詳細な説明が書かれていたのに赤い部分は何も書かれていなかった。

「このエリアの情報は公開されていないからな。
だが、オタクロスがハッキングした結果――」

画面がまた切り替わる。
見取り図は立体的になって、こっちの方が建物の構造がよく分かる。
そのエリアの詳細な情報も書かれていて、素直にすごいと思った。

「さすがオタクロス!」

バン君が身を乗り出して、そう叫んだ。
ジン君も驚いたような顔をしている。

拓也さんは更に画面を操作して、赤い部分からある一か所を取り出す。
ほぼ立方体のその部屋の情報は詳しくは書かれいなかったけれど……。

「おそらく『オメガダイン』のメインコンピュータはここに設置されている」

「ハッキングして、データを吸い取り出すことは出来なかったんですか?」

「残念ながら、外部からのアクセスは強固にブロックされている。
オタクロスも無理だったそうだ」

「……つまり、ここに入って、直接アクセスするしかないということか」

「通路は一つだけ……」

他に出入り口らしき場所はない。
隣に座っているジン君は僕の言葉に頷いて、そして言った。

「その通路も厳重にガードされていると考えた方が良いな」

「うーん……内部にあるダクトを使ってLBXを送り込むしかないか」

「その通りだ。
侵入可能なダクトがあるのは、この三箇所」

画面がまた切り替わり、その中には拓也さんの言うように三つの光点があって、その一つが明滅した。

「ジンはAブロックを頼む」

拓也さんの言葉にジン君が頷く。
次に二つ目の光点が明滅する。

「バンはBブロック」

「分かりました!」

「ユウヤはCブロック」

「まかせてください!」

僕はCブロックか…。
何があるか分からないから、気を引き締めて行こう。

「でも、『オメガダイン』にはどうやって入るんです?」

「正々堂々、正面から行くさ」

ジン君の当然の疑問に、拓也さんはそう答えた。
パソコンを操作して、僕たちに見せられたのはロボットのようなキャラクターが描かれた画面。
僕たち三人は驚いて、「あっ!」と声を上げてしまう。

「《オメガダイン見学ツアー?》」

「ああ、そうだ。
これなら、正々堂々と正面から『オメガダイン』に入ることが出来る」

確かに、これなら何も問題はない。

拓也さんの作戦に、これならと僕たちはお互いに頷き合った。




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