Girl´s HOLIC!

12.LBX連続通り魔事件


図書館に来た私は階段を上がって上がって、あまり人の寄りつかない場所まで来ると、そこにあった資料を取るための梯子に腰掛けて、鞄の中からノートパソコンを取り出した。

それで先輩の事件を検索する。

先輩の事件はちゃんと記事になっていて、先輩の鞄が切り裂かれたこと、その連れの女の子が薬品を掛けられ顔が爛れてしまったことが書かれていた。
怪我をさせたLBXは発見されず、プレイヤーも不明。
警察はCCMの操作可能距離は一キロということで、その範囲を重点的に捜査中とある。

記事はそれで終わらず、LBXを使った犯罪は証拠が残りにくいため、逮捕が難しいこと。
現行犯が望ましいことや調査は難航していることが記されている。
また、LBXに関しては一応は玩具であるものの、その武器としての性能の高さからか法整備が不十分なことや警察の対応の遅さ、対応の難しさなども指摘されている。

「なるほど…」

ふむふむと記事を端から端まで読んでいく。
そして、最後に関連記事というのが表示されていたので、そこをクリックした。
ずらっと画面にはLBXが関連した記事が並ぶ。

ここ何か月だけで二十数件。
一番最初の記事はさっきのだったので、次の記事を開いてみた。
これは子供のLBXが暴走して、「Mチップ」のおかげで停止信号が発信され、停止したという記事だった。

「うーん…次」

あまり関係なさそうなので、次の記事へ。
三番目の記事はLBXが人を襲ったとある。
被害者は市街の大学生。先輩と同じように襲われて、腕を怪我したとある。
LBXの特徴を見てみると、先輩の事件と同じようなLBXの特徴が書かれている。

「ん?」

不思議に思って、更に次の記事へ。
こっちは郊外に住む若い夫婦が揃って重傷とある。
夜道で襲われたらしい。
同じようにLBXの特徴が…こっちは書かれていなかった。

記事を遡り、次へ次へと読んでいく。
関係ない記事も多いけれど、中には似たような事件もある。
襲われるのは大抵若者で、私と同じかそれよりも少し上ぐらい…かな。
LBXの特徴は分からないという記事も多いけれど、載っている記事の特徴は大体が似たような特徴をしている。

「……え、と…」

キーを叩いて、お目当ての記事を探す。
思った通り、いくつもの新聞やゴシップがこれらの事件が関連しているのではないかと報道していた。

女性が連続して狙われている場合もあるから、「切り裂きジャック」の再来ではないかとか、不謹慎な報道をしている所もある。

多くの記事では「LBX連続通り魔事件」と書いてあるけれど。

LBXが似ていること、決まって若者が襲われること、犯行時刻が似通っていること。
共通点が多いし、同一犯もしくは模倣犯の可能性を考えるのは当然といえば当然か。

警察に任せる…のが、一番安全だ。
でも、警察にはLBX事件に関する実績が少ないとある。
私が憶えている限りでも、強盗事件ぐらいなもので、それも現行犯で逮捕されていたような気がする。

「どうする? どうしよう…」

早く解決したい。
LBXで犯罪をするなんて、山野博士のあの素晴らしい著書や論文を馬鹿にしているのと同じことだ。
なんとしても、迅速に解決せねば!

思わず拳を握ってしまう。
私とはあんまり接点のない人だけれど、彼に恥じるような行為だけは許してはいけないというぐらいに、山野博士の著書と論文は大好きだ。
本人が好きかどうかは、もしも会うことが出来てから判断しよう。
論文と本人の性格が違うなんてよくあることだ。

「とりあえず、ヨルに頼んでみようかな…」

そうなのだ。

私は本を読んでも、LBXは出来ない。
問題解決となれば、ヨルの力は必要不可欠だ。

彼女が望まない限りはこの事件を解決することは出来ない。

「よし!」

まずはヨルにこの事件のことを話してみよう。

そう思って、CCMを開いたところで、どこからかチャイムの音が聞こえてくる。

ああ。昼休み終了のチャイムか。……ん?

「ヤバイ! 講義! 遅刻!」

次のをサボったら、また呼び出しを喰らいかねない。
鞄にノートパソコンを仕舞い、急いで立ち上がる。

階段を下りながら、ヨルに家に帰ったら出掛けないようにお願いのためのメールをしてから、離れた場所にある講義室までとにかく走った。

「なんで、こんなに遠いのかな!」

文句を言いながら走っていると、背後から笑われたのは一生の恥だと思う。


■■■


「ヨル! 話があるんだけど!」

学校から帰ってくると、開口一番、私はそう叫んだ。

リビングのソファで寛いでいたヨルは私の声にびくっと肩を動かし、恐々と私を見た。

「う、うん。お昼のメールの《出掛けないで》って、それのこと?」

「そう。それ。
ちょっと待ってて。今日の新聞と…」

リビングのラックの中から今日の新聞を取り出す。
そこからお目当ての記事を見つけて、テーブルの上に敷いてから、ちょいちょいとヨルを呼んだ。

とてとてと歩いて来たヨルが、テーブルの上の新聞を少し背伸びして覗き込む。
どこを見ていいか分からず、首を傾げているのに気付いて、慌てて記事を指差す。

「通り魔事件?」

「うん。これ、私の先輩が被害者なんだけど、この事件、LBXが関わっているらしいんだ」

LBXという言葉に、途端にヨルの目の色が変わる。
真剣な色を帯びて、青色の瞳を鋭く細めた。
ヨルの白い指が短い文章を丁寧になぞり、読んでいく。

「女性が重傷…。
LBXで人を傷つけたなんて、『オメガダイン』が停止信号を送らないはずがない。
そうなると、オリジナルのLBX…かな」

ぶつぶつと私が考えたことと同じようなことをヨルが呟く。
私はその呟きに大きく頷いた。

「オリジナルのLBXって、『Mチップ』は入れないの?」

「推奨はされてるはず。
市販もされてるし、登録も簡略化されてるから、もしもの時のために入れる人は多いみたいだけど、入れない人もいる。
犯罪に利用してる時点で、内蔵することなんてしないだろうけど」

「……ご尤も。
それでね、この記事の他にも同じようなのが…」

昼休みに調べた記事をノートパソコンを開いて、ヨルに見せた。

彼女は一瞬だけ青い目を少し、ほんの少しだけ見開く。
私はそれを驚いたんだなと捉えた。

その記事を含めて、たくさんの記事をゆっくり時間を掛けて読んでいく。

「うん。大体分かった。
特徴が似てるし、多分…同じLBXだと思う。
傷付けられた体の部位がほとんど同じだし、武器の癖が出てるのかも。
CCMの操作範囲は一キロだけど、そこの住人とは限らないから、犯人を見つけるのは難しいだろうね」

「そうなんだ。
それで、これは…提案なんだけど、私の勝手な頼みなんだけど、この事件を私たちの手で解決したいの」

私の突然の提案に、ヨルは目を丸くするわけでもなく、拒否するわけでもなく、ただその青色をキラキラと輝かせた。
頬が緩く蕩けていくのが見て取れて、本当に嬉しそうに笑う。

その笑顔に、ぞくりと背筋に悪寒が走った。
本当に一瞬だけれど、理由のない悪寒。

なんだろう。この笑顔。
友達に見せるものとはどこか違う気がする。

「うん。いいよ。
私が出来ることなら、なんでもする」

聞きようによっては、ものすごく際どい言葉だった。

それをとびきりの笑顔で言うものだから、提案した私の方が引いてしまう。

「い、いいの!?」

「うん。いいよ?
それとも、ダメなの?」

「いや、有り難いんだけど…危ないと思うよ?」

「だって、この家の中では私しかLBX、操作出来ないし、リゼの頼みだもの。
友達の頼みだもの。家族の頼みだもの。
なんでもする」

青い瞳を純粋に輝かせて、言い切った。

その目を見ていると、言いようのない不安が襲ってくる。
目の前に今まで見たことのない、得体の知れない何かがいるみたいだ。
見ているだけで不安になってくる。

本人はやる気だから、このまま話を進めていくのが良いのだろうけれど、少し躊躇してしまう。

私のその様子をヨルはじっと見ていた。
目を逸らさず、じいっと。
不意に彼女は私に笑いかけると、さっきとはどこか違う少し高い声を出して言った。

「犯人を見つければ、いいんだよね。
LBXで人を傷つけるのは、きっと友達も望んでないから、私、頑張るよ。
リゼも頑張ろう!」

純粋な、正義感に満ちた響きだった。
さっきまでの異様な雰囲気が一気に霧散していく。

そのことにほっとした。
いつものではないけれど、こっちの方が普通の反応のような気がしたから。

気のせいだったのかな。うーん。

私がなんだろうと原因究明のために頭を捻っている間、ヨルは新聞記事と私を交互に見つめて、少しだけ口を手で押さえた。

その動作に「大丈夫?」と声を掛けると、彼女は「大丈夫」とか細い声を出した。

うん。大丈夫ならいいか。

「よし! 犯人、見つけるぞ!」

「おー!」と握った拳を頭上に掲げると、控えめにヨルも拳を頭上に掲げたのだった。



prev | next
back


- ナノ -