「…………は、何て、団長」


ユウは目を大きく見開いて目の前の人物の顔をまじまじと見つめる。しかし、嘘を付いている様子は一切感じずそれが事実である事を裏付けている。


「この放浪サーカス団、ルノマールも終わりだって言ってる」
「急に、何で!!」
「決まった事だ。口出ししない様に。……あぁ、他の人には言わない様に。夜の集まりで団長である俺が言う」
「…………外、出てくる」
「これは……っておい!!」


ユウは団長の返事を聞かずにその場から離れる。最初はゆっくりと、けれど段々と歩みが早くなり最後には走っていた。
ユウの目元からは涙が流れている。
ユウにとってルノマールは家であった。それが急に舞台から戻って衣装を着替えてひと段落したら無くなるなんて誰が思いつくのだろうか。


「嘘、なら、良かったのに」


ユウは今程、団長の嘘を付けない性格を恨む。今迄さんざん自分が団長の性格を使ってきた癖に難儀な事であった。
涙は止まる事なくユウの頬を濡らす。離れたかった。知っている人から遠くに離れたかったのだ。
それが、最後には戻らなくてはならないとしても。
曲がり角を曲がった時に、丁度そこにいた人物にぶつかってしまった。


「……っ!すみません、急いでて」


濡れている顔を見せる訳にはいかずにユウは視線を下げたまま頭を下げる。目の前のぶつかった人物から息を飲む様な音がして、不思議に思いユウは顔を上げた。


「…………ぇ?」


そこに居たのは、ユウが城で別れた筈のオビが驚いた様にユウを見ていた。ユウも食い入る様にオビを見つめる。


「…………ぁー。久しぶり、って言うのかな。ぶつかっちゃってごめんね、ユウ嬢」
「いや、私の方こそ……」
「急いでるって言ってたけど、大丈夫?」
「あ、その。……別に、用があった訳じゃないから、平気、です」


オビは頬を掻きながら、ユウに笑いかける。ユウも気まずく思いながらも何とか返事をした。今の気持ちのままオビと向き合えそうに思えなかったのだ。
ユウはオビがユウをじっと見ている気配を感じる。居た堪れなくてその場を後にしようと踵を返そうとしたが、その前にオビに左手を掴まれて止められた。


「……オビさん?」
「…………えっと、泣いてる?」


ぴくり、とユウの肩が揺れたのが手を掴んでいたオビには分かった。
人に自分の気持ちを悟らせない様に気を張っているユウがオビの前で動揺してしまったのだ。それはつまりユウはそれを出来る程精神的余裕が無いという事だろう。


「…………」
「……話、聞くよ?」


ユウは左右に首を振る。
この状態でオビとなんて居られないと思っているのだろう。けれどオビにとって今の状態のユウを「はいそうですか」と離す事が出来なかった。


「……なら、さ」


オビがもう1つ、案を出してくる。


「…………どうしても?」
「うん、どうしても」
「……それ、私断れないよね」
「そうだね」


それはユウにとっては断りにくいものであり、勿論オビもそれを分かっているからこそ言ったのが分かる。ユウは大きく溜め息を吐いて笑った。


「喜んで」


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