オビはゼンから渡された書類を持ってユウ達の次の公演場まで無事に辿り着く事が出来た。既に公演は終わっている、という事は無く任務を無事に遂行出来そうである。


「っと、ユウ嬢は近くだと気付くからな。離れて終わるまで見てるか」


近くに場所を取り座ろうとしたものの、直ぐにウィスタル城での事を思い出し、近場の木に登る。小さな望遠鏡を懐から取り出し舞台へと向け、準備は万端である。
もう直ぐ、ユウ達の公演が始まろうとしていた。


「初めましての方は初めまして!!サーカス団ルノマールによる素敵な2時間をどうぞお楽しみ下さい!」


ユウの声が大きく響いたかと思うと、舞台の上から鳥達が舞台上へと降りてくる。最後に大きな鳥に乗ったユウ嬢が降り立った。


「…………まって」


オビは舞台を直視出来ずに望遠鏡から顔を離して横に向けた。その顔は少し赤みを帯びており、照れている事がありありと分かる。
オビが照れた理由、それはユウを見れば一目で分かった。
オビが選んだ服、それを着ていたのだから。


「破り捨てたんじゃないの……?」


オビ自身の中で、どうしてか歓喜が溢れていた。ユウはオビが見ている事など露知らず、城と変わらない笑顔で舞台の上に立っている。
舞台上に居るユウは生き生きとしており、心から楽しんでいる事が伝わる。オビは大きく息を吐きながら背中を木の幹に預けた。


「…………」


目を閉じて何かをじっくりと考えている様である。ユウの出ている舞台は止まる事なく進んでいく。
ユウはウィスタル城とはまた別の流れでお客を喜ばせている。オビが閉じていた目をゆっくりと開いてまた手に持っていた顕微鏡を顔に寄せた。


「……そっか。ユウ嬢は今居る所が大切なんだね」


ぽつり、とオビは言葉を漏らす。どうしてユウがあんなにも一生懸命だったのか。
___それはきっと、今居る場所が大切で、大好きだから。
まだ流れるままのオビにとってはとても眩しく感じる。

オビはユウが羨ましかった。
あれ程までに真っ直ぐと今居る場所を守れるユウが。
あれ程までに自分の事を二の次に出来るような存在を持っている事が。


「……言ってた通りだよ、本当に」


何かを耐え忍ぶ様にオビの顔は歪む。
今日でユウが輝いている姿を見るのは最後なのだ。オビはユウの事をじっくりとまた見る為に体を少し舞台へと傾けた。

ピィ、と小さく何処かで鳥が鳴いた声が響いた。


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