オビはゼンの執務室の中で机越しにゼンと向き合って立っている。


「それで?主。任せたい用事って何ですか?」


オビが問いかけると、ゼンの横に立って居たミツヒデと木々はオビへと小さな手紙と書類を渡してくる。
その書類をオビがよくよく見る前にゼンは口を開いた。


「ユウ殿達にクラリネス代表のサーカス団として城に招き入れたいと思っていてな。前に団長殿に聞いたのだが、直ぐ近くでまた公演をするらしい」


そこでオビにこの書類を届けて貰いたい、とゼンはオビの目を真っ直ぐ見て告げた。オビにも断る理由は無いし勿論二つ返事で引き受ける。
そのオビの様子にゼンはほっと溜め息を小さく吐く。


「ただ、渡すのはその公演が終わってからにしてくれ。……あぁ、もしオビが公演に間に合わなかったらわざわざ追いかけなくても良いからな」
「はぁ……。分かりました。まぁちゃんと書類は渡して帰って来ますから」
「宜しく頼む」


何故に公演が終わるまで悟られてはいけないのだろう、とオビは疑問に思うものの聞き出す事はせずに書類を受け取る。


「で、今からですか?」
「あぁ、場所は……ミツヒデ」
「分かった。南に馬車で大体1週間程度の場所の……」


ミツヒデが場所の名前を言うとオビは「それじゃ、行ってきますね」とさっさと出て行った。ゼンが命令したから、を抜きにしても随分と身軽だった様にミツヒデは感じるだろう。


「さて、これが吉と出るか凶と出るか……」


ゼンが窓の外を眺めながらゆっくりと口を開いた。ミツヒデや木々にもユウとオビがどうなるかなんて分からないが、やれるだけの事はやったのだ。後は本人達がどうにかするしかない。


「まぁ、ゼンはイザナ殿下に書類を出さないといけないけどね」
「…………分かってる」


ゼンはイザナに話は通したものの、正式な書類はまだであった。ゼンがユウ達のサーカス団を選んだ為に最後まで責任を取らなければならない。


「いやーしばらく忙しくなるなぁ」
「お前らも働いて貰うからな、木々、ミツヒデ」
「知ってる」
「分かってるよ」


ははは、とミツヒデが乾いた笑い声をあげた。


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