ゼンは執務室の中で頭を抱えていた。目の前の机の上にはやらなければならない書類の山。けれどゼンは手をつける事が出来ないでいた。


「ゼン、何をそんなに悩んでるんだ。手を付けてないじゃないか。悩み事か?」


追加の書類を丁度持ってきたミツヒデは進んでいないゼンの様子に首を傾げる。イザナがゼンにちょっかいを掛けた記憶が無いので、何事だろうかと思ったのだ。


「……白雪の事か?」


白雪、と聞いてゼンは肩を小さく揺らす。
確か今日は白雪と会えてないが、此処まで抱え込むほどだろうかとミツヒデは唸る。
ゼンはゆっくりと顔をあげると本当に何も分かっていない様子のミツヒデに対して大きな溜め息を吐いた。


「ゼン?」
「お前だけに話しても拉致があかない。木々はまだか」
「呼んだ?」


席を外していた木々も戻って来てゼンは渋々と口を開く。


「……オビの事だ」
「…………あぁ。うん」
「オビ?まーた何かやらかしたのか?」


木々はゼンが言いたい事が何となく分かったのだろう、頷くものの、やはりミツヒデは首を傾げるだけであった。


「やっぱりお前は果てしないアホだな」
「はっ!?」
「……オビはユウの事、好きだったと思う」
「木々もそう思うか……。実はな、1つ考えている案があるんだが」


ミツヒデの事は放っておいてゼンと木々は話し続ける。ミツヒデはえ?え?と驚いていたものの何か納得出来たのだろう、うんうんと頷き始めた。


「あ〜やっぱりオビはユウの事好きなのか〜。……よく2人は分かったな」
「本人は否定してるけど、ユウを見る目は優しかったからね」
「……雰囲気が柔らかかったからな」
「それで?良い案じゃないか。何を渋っているんだ?」


ゼンはミツヒデの問いに答えにくそうに眉を顰めた。


「オビに気付かれないか、って点で」
「……あー。確かに。オビ目敏いもんなぁ」
「あいつの事だ、"主達、俺の為に仕事増やさないで良いですよ"とか言いかねん。良いか、バレない様に動くぞ」
「分かった」


ミツヒデと木々がこくり、と頷くと執務室の扉がゆっくりと開く。入って来たのは丁度、話に出ていたオビであった。


「あれ?旦那達何で集まってるんですか?厄介事ですか?」
「いや、対した事じゃない」
「…………ふ〜ん?なら良いですけどね」


不思議そうに尋ねてくるオビにゼンは淡々と答える。答えた後の何か探っている様なオビの目を見て、ゼンの背中に冷や汗が流れる感覚がしたのだった。


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