馬車の中に布団が敷かれており、中で温まっているユウは全く起きる気配が無かった。専門医は寝起きの良いユウにしては珍しいと思いつつも起こす為に近寄る。


「ほーら、ユウ。起きた、起きた。朝だよ」


ぽんぽん、とユウの肩を叩きながら起床の声がかかる。ユウはゆっくりと目を開けて返事をしてから身体を起こした。


「…………おはよう」
「はい、おはよう。珍しいね、ユウが叩かれないと反応しないだなんて」
「……うん?」


ユウは首を傾げる。
起きたばかりでまだ脳がきちんと覚醒していないのだろう。少ししてから「あー」と唸った。膝を抱えて、丸くなりながら頭を垂れる。


「オビさんの事考えてたらなかなか寝れなくて。別の事考えようとしても思考回路が戻っちゃったんだよね。色々疲れてたからだと思う。……多分明日は平気になると思う」
「…………そっか」


布団を畳みながらユウはゆっくりと立ち上がる。特にふらつく事なく布団を持ち上げると仕舞うべき場所へと運び、押し込んだ。


「さて、仕事しますか」
「あ、そういえばさ城下町で買い物でもしたの?荷物増えてたけど」
「……うん。まだ着れてないけど」
「綺麗な服じゃないか。ユウに合う色をしてたね。団長もユウに似合う服分かってきたんじゃない?」


今迄のも似合ってるけどね、と専門医は付け足す様に大きく口を開けて笑った。ユウも釣られる様に口角を上げて笑えた筈だ。
専門医が言った荷物は動物達の餌と、城で着た衣装の他にもう1つあった衣装の事を言っていたのだろう。

薄い青緑色をした少し派手めの衣装。
オビに、ユウが選んで貰った服。
オビには服は気に入らなくて破り割いたと言ったものの、好きな人に選んで貰った服を1回も着ないで破り捨てるのは抵抗があったのだ。


「次の公演場所は近いんだっけ」
「うん。2、3日後には着くと思うよ」
「…………分かった」


次の公演場所が近いから、と言ってオビは観には来ないだろう。彼は優しいから本当に会う事は2度とない。
オビのいる場所から近い所で選んで貰った服を着て本当に終わりにしよう、とユウは決めていた。

___けれどそう思うと何故だか胸がちくり、と痛むのだ。


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