チッ、チッ、と時計の秒針の音がゼンの執務室に響いている。書類を見ているゼンが少し手を止めて、目線を向けるのは書類を整理しているオビであった。
表情そのものは真剣であるが時たま時計の方を確認している。


「…………オビ」
「何でしょう、主」
「……時計を気にし過ぎだ」
「…………」


ゼンに声を掛けられたオビを木々とミツヒデも手を止めて見つめる。
オビは真顔になりゼンを見つめ返す。
ゼンも何も言わずオビの言葉を待っている。
_____折れたのはオビであった。


「……ユウ嬢に会いたいですよーー!!主ィーー〜!!!!」


わっ、と持っていた書類を置き顔を覆った。
その様子にゼンは深々と溜め息を漏らす。ミツヒデも失笑を浮かべ、木々は呆れた様に目を細めた。


「大体、主が!!直ぐユウ嬢を遠くにやるから!!」
「仕方ないだろう!?そもそも明日戻ってくるだろ!!大人しくしてろ!」
「出来立てほやほやの恋人を引き離すなんて!!酷いですよ!!」
「誰のおかげで恋人になれたと思ってるだ!」
「主のおかげです!!!」


ぎゃんぎゃんとオビとゼンが言い合いをしていると木々は静かに立ち上がり執務室を出て行った。オビはそれに気付くものの木々がサボる事をしないと知っているし、特に何も言わない。ゼンも言わないという事はそういう事だろう。


「ほら、オビ。大人しく出来る所までやろうな」
「旦那ァーー〜!!旦那はいつも側にいるから良いですよねぇ……」
「言っとくけど、ゼンには白雪が居るからな?」
「…………そっちじゃないですよ」


ユウとオビが恋人同士になり城にユウが来たが、クラリネスの代表としてさっそく仕事に出てもらっていた。"クラリネス代表"と箔がつくと沢山のお偉いさん方に呼んで貰えてありがたい、とユウはオビに語っていたそうだ。
そう語ったユウは本当に充実している様であったし、楽しそうであった。それをオビは微笑ましいとは思っている。けれど、こうして1週間など居なくなり、帰ってきても直ぐにまた出掛けるのはつまらないのだ。


「……しっかし、お前の場合普通に待ってそうなイメージあったんだがな」
「待ってるじゃないですか〜。ちゃんと仕事してるじゃないですか〜」
「当日でもないのに時計を見過ぎなのはどうなんだ?」
「…………いや、ほらぁ〜。主だってお嬢さんがそうだったら気になりますよね??」
「ゼンは分かるけど、確かにオビがそわそわしてるのも珍しいよな」


ミツヒデが不思議そうにオビに尋ねるとオビは顔を歪めた。


「…………別に、対した事じゃ無いですよ」
「オビがそんなに言いにくそうにするのも珍しいな」
「………………ただ、少し、……寂しいな〜、って、だけなんで、特に対した事じゃ無いです!!」
「あ〜。まぁ着いて早々に落ち着く間も無く行かせまくってるからな……。悪いとは思ってるぞ?」
「主、そこまで心に響かない謝罪は初めてです」
「おい。……まぁ、そんな頑張ったオビに褒美をやろう」


こほん、とゼンはワザとらしく咳をする。オビは対して興味が無さそうに「褒美ですか」と聞き返す。
それを待っていたとばかりにゼンはにっこりと笑うと木々が出て行った扉を指指した。


「実はユウ殿が戻ってくる日は嘘だ。ついでに言うと木々が迎えに行ったし、挨拶回りもひと段落したから明日は休みだ」
「……はい?」
「木々!入ってこい!」


理解が追いついていないオビを放っておいてゼンは扉の奥に声をかける。扉がゆっくりと開くと木々と木々の後ろからゆっくりとユウが執務室へと入って来た。


「遅い」


不満そうに木々は告げるが、ゼンは苦笑いしながら謝る。ユウはオビの方を見ずに顔を下に向けている。髪の間から見える耳は仄かに赤く染まっていた。


「……あの、オビさん」
「…………」
「…………わ、私も、少し、寂しかったです」
「……〜っ、主!!」
「分かった分かった、行け」


何かを言わなければ、とユウは顔を上げると恐る恐るといった様子で口を開く。オビはわなわなと口を震わせるとゼンへと許可を求める様に声を出した。ゼンも呆れた様に左手をひらひらとオビへと振った。


「え?あの、殿下、って……きゃっ!!?」


不思議そうなユウの手を掴むとぐい、と力強く引っ張り開いている扉へと走り出す。


「やっと主からのお許しが出たんだ、行った事ある所で申し訳無いけど、城下町にデートしに行こう!」
「え?え??あの、え???」
「行って来ます、主!!」


オビは楽しそうにユウを連れて走る。
つられてユウも引っ張られる手によって転ばない様に走りついて行く。
ちらり、と隣を見るとオビは随分楽しそうである事がユウに分かる。ユウがこうして城に落ち着いて居られるのは移ってからかなり久しぶりであった。
ゼンからクラリネス公認になるに当たってさまざまな方面に挨拶周りをする様に言われていた。正直、ユウにとっては一つの場所に留まるなんて思いもしてなかった。
けれど、団長の様子から見てユウの為に決断したのだろう事が分かる。


「……オビさん」
「ん?どうした?」
「……私って幸せ者ですね」


ユウはどうしてか言いたくなってしまい、オビへと告げる。オビもユウの言いたい事が何となく分かったのかへらり、とユウへの笑い返したのだった。


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