ぽたり。

と、目の前のユウの頬を通った涙が床に落ちた。
なんで泣くんだよ、と声を掛けたいけれどそれを俺が言うのは門違いであった。何故なら俺がユウを泣かせたから。


「……どう、して?」


その一言は沢山の意味が込められた一言であった。ユウと一緒に過ごしてきて早数年。その中で恋人、という関係になりたくて告白したのが今日。師匠である忍田さんがこの状況を見ていたらどうするだろうか。弟子の成長に涙するだろうか。それとも俺が正気であるか疑うだろうか。


「どうしても何もお前が好きだから」


ユウに届いて欲しくてキッパリと問い掛けに答える。そんな答え方で自分の望む返事が貰えるならきっと世界中の人は誰も苦労しないだろう。だけれども少しでも良い印象を持たれたくて。


「………馬鹿」


絞り出す様にユウの口から音が発せられた。心臓が強く拍動を拍つ。ものの数秒、いや数分の事がどうしてだか数十分の様に感じられた。ユウの涙はまだ止まらなかった。


「本当に大馬鹿野郎だよ。………馬鹿」


ズビリ、と鼻をすする音がする。お世辞にも誰にも好かれる容姿とは言えないユウ。それでも俺が好きになったのはどうしてだろうか。一目惚れなんて大層なものじゃなかった筈だ。ただ気付いたら目で追っていたし、笑顔を自分に向けられると胸の奥がぽかぽかと暖かくなる気がしたし、他の人とどうでも良い事だろうと話していると周りから怖いと言われる程に顔が歪んでいた。


「……太刀川。悪いけどあんたとは付き合えない」


そして予想していた返事内容だったとしても鼻の奥がつん、と詰まる。だけどユウの前では泣きたくない。両思いでは無いにしろ好きな女の前で惨めに泣き出すのは俺が目指す男じゃなかった。


「……私、今一生懸命やりたい事が出来たの。だから、……無理」


そっか、と声が出てただろうか。俺はユウの前でいい笑顔でいられてるだろうか。
ユウはそれだけを告げるとゆっくりと俺に背を向けた。俺を一瞥もせずに前だけを向いて離れていく。

あぁ、そうか。俺がどうして惹かれたのか。ユウの真っ直ぐと凛としている姿が忍田さんの様に敬意を示すに値するからだったのかもしれない。
小南から借りた少女漫画では振られた少年は彼女の幸せを願っていた。確かに彼女の幸せを願うけれど。
彼女を幸せにする事が俺に出来たらどれ程幸福だっただろうか。
チクリ、と小さく胸が痛んだ。



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20歳位になると素直に恋愛が出来なくなるよね、といった事をテーマにしました。三門市の有名人だからこそ、自分よりもっと素敵な人が居るし、自分ももっと見合う様に努力しなきゃいけない、だから今は付き合えない、といった女々しい思考の夢主です。


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