_____ピピピピピ。


「………んむぅ?んん………」


夜中の24時。
寝惚けている状態で自身の体温によって温もっているベットから手だけを出し、頭上にあるヘッドボードから音の鳴る本体を探すが、次第にその手の動きもゆっくりになって止まった。

_____ピピピピピ。


「……ぅ…………あっ!!」


急かす様にまだ鳴り続けている物の正体が少しづつ覚醒した頭に浮かび、ユウは慌てて布団をめくり上げながら上半身を起こす。
先程手を伸ばしていたヘッドボードに目を向けるも、音を鳴らす様な物は無く顔を左右に動かして物の正体を探す。するとナイトテーブルの上に親から「高校生になったから」と買ってもらったケータイとボーダーからA級に支給されたケータイが仲良く並んでいて、その内の1つが音を立てていた。


「……はいはい、もしもし?一条ですよ」
『…………お前出るの遅くねぇ?これ、緊急収集だったらどうすんだよ』


どうやら予想していた展開ではなかった為ユウは肩の力を抜く。ボーダーからの支給ケータイが鳴る時、しかもこんな時間じゃあ緊急収集だろうと身構えてしまうユウは悪くないだろう。


「なんだ、出水先輩かぁ〜。緊急じゃないならなんですかぁ〜?私は眠たいです」
『なんだ、とはなんだ。仮にも先輩だぞ、お前。……おい、聞いてる?寝んなよ?』


聞き慣れた出水の声を聞きながらユウはケータイを器用に右肩と頬で挟み、先程捲った布団を両手を使いながら肩にかける。
緊急収集で鳴っていた訳ではなかったので安心からまたうつらうつらと頭が揺れて出水の声にぎくりと肩を強張らせた。


「うえ、なんで分かるんですか……。てか本当に何の用ですか?いくら温厚な私でも暇だったから、って理由で支給ケータイに電話されたら怒りますよ?」
『おい、普通のケータイに何回掛けても出ねぇんだからしょーがねーだろうが』


ふんふん、と上辺で返事をしながらもう1つのケータイを取って確認するとどうやら本当に出水からの連絡が3件程入ってる。


「あ、確かに。入ってますね。それで?こんな時間に掛けるって事は大事な用なんですよね」


広報嵐山隊に籍を置いているユウ。
嵐山隊には時枝と佐鳥がいる為に霞がちだがしっかりと空気を読む事が出来るし、気遣いも出来る。だが偶に高校生らしくはしゃぐ事もあるもののそこはユウならでは愛嬌というものだろう。


『……いや、その』


いつもの飄々とした出水からは考えられない様な煮え切らない返事にユウは大事だと感じケータイをしっかりと手に取り背筋を伸ばす。


『…………これから、遠征だから、さぁ。ちょっと人の声が聞きたくなると言うか』
「………それで私ですか。まぁ別に良いですけどね?」


ユウは嵐山隊の為、市民から1番注目されるポジションに居る。そんな嵐山隊の面々が遠征に行く事は今まで無かったし、これからも無いだろう。
だからユウは出水の気持ちが分からないし、出水もそれを知っている。


『ん、いやでもこんな時間に掛けて悪かったわ』


いつもならちゃんと謝らずに意地悪をしてくるのにこの人はいつもそうだ、とユウは思う。自分が1番弱ってる時に限って人に気遣いというものをするのだから気付かれないのだ。


「何しょぼくれた事言ってるんですか。今更ですけど?……何時、行くんですか?」
『……1時』


ユウは会話をしながら時計を見ると0時5分。


「1時間くらい変わりませんよ。目ぱっちり覚めましたし」
『………そっか……』


おずおずと出水は電話先で口を開く。
本当に不器用な人だから、周りがちゃんと助けてあげなきゃいけない。自分から本当に大事な時は寄り添ってくれない。


「……でも言ったら出水先輩は少し楽になるのに」


小声で呟いた言葉は出水には聞こえない。
大変な事だからこそ周りに迷惑をかけたくないのだろう。自分の中で収めてしまうのだろう。
米屋とふざけている事が大半だか、米屋も出水も芯は優しい人。ユウは2人にどれだけ救われたか忘れた。小さい事、大きい事、本人達はそのつもりは無いのだろう。
だけども救われた事には変わらない。



だからユウは思うのだ。
今度は自分が役に立てます様に、と。



その為なら1時間位話に付き合うぐらいどうって事無い。


「元気になる為なら私は頑張りますよ!!」
『お前急に何叫んでんの?』
「別にぃ〜?何でもないです〜!!」


出水を前にしたら恥ずかしくて言えないけれども、どうかいつも笑っていて欲しいと思っている事をユウは胸に抱えているのだ。



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嵐山隊に所属する夢主(隊員数の規定違反には目を瞑っております)です。決して行ける事の無い遠征をテーマにしました。


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