太陽の光によって照らされている室内。その部屋の広さは"1人部屋"と呼べるような通常の大きさでは無く、かなりの広さ。さらにバスルームや物置に続く扉も見受けられる。
けれど部屋はさっぱりとしており、シンプルなクローゼットにベット等の必要最低限のもので構成されていた。
そんな部屋に備え付けられているいくつか有る扉の先にユウは居た。化粧台の前に座っており、手元にはいくつかの化粧品が蓋をして丁寧に並べられている。
ユウは腰に小さな短剣を仕込み、小さく息を吐くと鏡に写り込んでいる自身を確認する。


「…………行くか」


決して長いとは言えないユウの髪はふんわりと1つに結びあげられていた。服装は変わらないものの、心ばかりきっちりとしている様にも見受けられる。

_____そう、今日は茶会の日であった。







「あ、木々ー!いたいた」


ユウは片手を上げながら、茶会の設営をしている庭を器用に通り抜けて端に居る木々の元へと駆け寄る。背中を向けていた木々は声を掛けたユウの方へと顔を向けた。ユウは木々の側に隠れる様にしゃがみこんでいるオビを見つけた。


「……って、オビ?どうしたの、こんな所でしゃがみこんで」
「ユウ嬢?いやぁ、大したことじゃないよ」


オビはきょろきょろと首を動かしユウと目を合わせる事無く警戒したままだ。その様子からして今迄話していた木々に対しても同じ対応だったのだろう。
「ふーん」とユウはよく分からないまま相槌を打った。木々が深く聞いていないという事はそういう事なのだろう。


「……ユウ、しっかりしてきたんだ」
「あ、そうそう。……他国の王子様が来るんだよ?ミツヒデは兎も角、木々はしっかりして来ると思ったのに、いつも通りってどういう事?」


ユウは訝しげな表情を浮かべながら木々を軽く睨みつける。自身だけ気合が入っている格好に少なからず恥ずかしいのだろうというのが木々にも分かった。


「そこまでする相手じゃないから」
「会ったこと無いって言ってなかったっけ?」


一瞬、木々が言葉に詰まった。木々は白雪の件で実際には1度会っているのだ。オビは気付いていなかった様だが、木々の目の前に居る目敏い人物はきっと気付いただろう。


「……まぁ、噂は聞いてるし気持ちも分かるけどね!」
「…………」


あえてユウは触れなかったのだろう。けれど木々にはどう返したらいいのか考え付かなくてただ口を閉じる事しか出来ない。


「ふぅ、向こう行ったか。……ってあれ!?ユウ嬢化粧してる!!」


オビがやっと周りを確認し終わったのか立ち上がりながら顔を上げるとそこには見慣れない格好のユウが視界に入った。
ユウは木々に向けていた視線をオビへと移す。それによって益々オビはユウの違いを見取った。
髪は高い位置でふわりとひと結びにされており、派手過ぎず、いつもの童顔のイメージが覆される化粧をしていた。今の正装の方がまるで正しいユウのイメージの様にオビは感じる。


「だから言ったじゃんか。女は塗料塗れば変わるって」
「いやぁ……これは詐欺だよ……」


まじまじと感慨深そうにオビは言葉を落とす。ユウもオビの反応が面白かったのか口角をあげ、声を出して笑った。
ひと段落するとユウは「じゃ」と来た時と同じ様に片手を軽く上げると茶会の設営の手伝いへと姿を消してしまった。


「……あれはバレたな」
「何がですか?」


木々が溜め息を吐きながら呟いた言葉に目敏くオビは聞き返す。渋々、と言った様子で木々はオビへと口を開く。


「ユウに嘘が」
「嘘付いてたんですか?何でまた?」
「……別に」


ふい、と木々がユウが去って行った方向へと視線を背ける。オビは木々をじっと見つめるだけだ。
木々の視線先にはユウがメイドや兵士に声を掛けている所であった。



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