あの後、花揺らいの間を後にした後に待ち受けていたのは白雪に対してはかなり酷な物だった。けれどユウにとっても大事なゼンの周りをうろつく女なのだ。
アレくらいで心折れる女ならば、邪魔にしかならない。


「……ま、お手並み拝見って所かな」


頭の後ろで腕を組み、庭を歩いていると見慣れた顔を見付ける。頬には小さな傷が付いており、ユウが投げた石が思った以上に鋭利だった様だ。


「…………」


何かを考える様にじっ、とユウはオビを見つめているとくるりと向きを変えて今来た道を戻って行った。







「えっと……。オ、オビさ〜ん」


ユウは手に応急手当の箱を持ち、先程の場所に戻って来て居た。見かけたオビは変わらず其処に居た事に安堵しながらも彼の名前を呼ぶ。


「……ん〜?あれ、あんたは?」


木の上に座っていたオビはユウが呼ぶと木から身軽に飛び降りる。そして不思議そうに首を傾げるのだ。


「あ〜えっと。初めまして……で良いかな?」
「うん。会った事無いと思うし」
「私、貴方に石を投げた者です」
「うんうん。…………は?」


頷いていたオビは急なユウの発言に目を見開くとユウとの距離を開けるために後ろへ下がった。体を低く構えて右手にはクナイを構えている。


「……何の様?」


その声色は返答次第では容赦はしない、と言いたげだ。


「お詫びと手当に……」
「……うん?」
「いや、実は石を投げたのは殿下の意地悪で……」
「ん??んん?」
「小さめの石を投げたつもりだったんだけど、思った以上に傷が深くて。私の予想ではほんの小さな切り傷を予想してたんたけどパックリ割れてるし、申し訳ない気持ちになったので……手当に……参った次第です……」
「ちょ、ちょっと待った!」


懺悔の様な気持ちでユウは臨戦体勢のオビに告げる。オビが理解しておらず、待ったをかけなければまだまだ話続けただろう。


「え、殿下って主の事!??」
「……?」
「ゼン殿下の事??」
「え??……あぁ〜分かった」


オビが何を聞きたいのか理解したユウはその場に座り込み、おいでおいで、と手を振りオビを近くに来る様に指示する。
オビはクナイを仕舞い、ユウの隣に座った。ユウがオビに危害を加える気が無いのを察したからだろう。


「殿下って言うのは、第一王子の方のイザナ殿下の事ね。私、イザナ殿下の側近だから」
「…………あ、なるほど」
「で、そのイザナ殿下がゼン殿下を意地悪する為に、居ない間に出来た側近にちょっかいかけてこいって言われて」
「うん」
「小さめの傷で良いって言われたんだけど……」


其処でユウは言葉を止めて、オビの傷がある頬に触れる。眉は下がっており、目は伏せられている事にオビは気付いた。
触れている手は傷を傷付けない様にとても優しく触れられており、何となくオビはユウから目を離す。


「……ごめんなさい」
「いや、別にお嬢さんが気にする事じゃ……」
「これくらい避けられなければゼン殿下の従者なんて意地でも降ろそうと思ってたから。……不審者みたいだったし」
「あはは、随分正直に言うもんだ」


あの時は確かにオビの事を疑っていたユウであったが、良く良く考えればあのゼンが選んだ相手である。そんな相手を疑いかかる時点でユウはゼンを信用していなかったのだな、と反省したのだ。


「……貴方の見た目で判断してしまったから」
「気にしなくて良いのに。自分の見た目が凶悪なのは理解してるし。……でもそうだな」


ユウがオビから離した手を、オビは掴む。痛まない様に手加減されている力加減であった。


「ならお嬢さんが俺の傷、手当してよ。その為に来たんでしょ?そしたら許してあげる」
「…………拒否するつもり無いのを逆手に取って」
「何?お嬢さんは俺に許して欲しく無いの?」
「じゃなくて、もっと、別の……」


オビは掴んでいた手をゆっくりと離す。ユウの様子からしてこれでは納得しない事が分かったのだろう。
しかしオビとしては別に気にしていなかったし、こうして謝りに来た時点で許している様なものだったのだ。


「うーん。つまり手当以外でって事だよね」
「……うん」
「それじゃ、お嬢さんの事、教えて貰おうかな」


オビはユウに向かって微笑む。


「だって俺の事知ってるのに、俺がお嬢さんの事を知らないのってフェアじゃないでしょ?治るまで毎日、手当してる時にお嬢さんの事を少しずつ教えてよ」
「…………喜んで」


オビの様子から他に無い事をユウは感じ取り、頷く。近くにあった応急手当の箱を開けて消毒液を取り出す。


「まずは名前からかな。私はユウです。イザナ殿下の側近をしてます」


そう言いながら消毒液を綺麗な綿にしみらせてオビの頬に当てた。



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