コツ、コツ、と靴が床を蹴る度に音がなる。
その音でユウの到着に気付いたであろうイザナは窓の外を見たまま、振り返らなかった。


「……首尾は?」
「上々です」
「ならいい」


それだけの会話をするとキィ、と扉が開く音と共に「失礼します」といった声が聞こえた。


「やあ、弟」
「お久しぶりです。兄上」


扉から入ってきたのはゼン達であった。ユウも予測していたのか聞かされていなかったものの対して驚く事は無かった。


「ミツヒデと木々も一緒か。相変わらず仲が良いんだな」
「…………お陰様で。兄上もユウと仲が宜しい様ですね」
「そうだな」


イザナからの言葉に反応してしまったゼンは仕返しとはがりにユウの事を出すが、イザナは素知らぬ顔で返事を返す。
大人気ない、とユウは無表情で思うのだ。


「何故ご帰還を俺に隠すんです」
「いつ気が付くかなぁと思って。お前がどの位城の事に目を向けているのか知りたくてね。元気そうじゃないか。安心したよ」
「兄上もお変わり無い様で何よりです」


イザナはゼンをからかうのが好きなのだ。
ゼンもゼンで律儀に1つ1つに反応を返して居るのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。
ユウは溜め息を吐く。
こんな事を話す為にゼンを呼んだのでは無かろうに。早く本題に入れば良いのに、と丁度思った時にイザナの声のトーンが1つ下がった。


「ラクスドまで行っていたんだって?ゼン」
「……はい」
「報告書を俺も見たよ。砦の隊員達が賊の仕業で倒れたって。身動きもとれず大変だったそうじゃないか。お前達と城の薬剤師ともう1人従者がいたとあったが……連れて来なかったんだな」
「その者は……まぁ、新参ですので」
「頬に、傷のある男か?不逞の輩かと思ったがお前のだったのか」
「…………」


カチャ、と小さな石を手元に出す。
何を言っているのか、とユウは呆れる。自分でちょっかいをかけてこいと言う程だ。イザナは書類を見ているだろうに。
そもそも本当に不逞の輩なら逃さない癖にと心の中で悪態を吐く。ユウと会話をしている訳では無いのだから無駄に口を挟むなんて事は出来ないし、したくも無いのだ。


「で?砦の隊員達への処分が報告されていないようだが?」
「___処分はしていません」
「何故」
「彼らには周辺地域を見回り守る任務があります。今回の件では既に何日もの間砦から動けずその務めを果たせていなかった。これ以上復帰を遅らせる訳にはいきません」
「ではゼン、お前の管轄からラクスドを先半年外す事にしようか。賊の仕業であったとしても砦の体制に過失はある。隊員達をお咎めなしとするならお前が処罰を受けろ」


そうしている内にもゼンとイザナの会話は続く。イザナはまるで何を言ってくるのか分かっているかの様に返事が早い。側近であるユウやミツヒデ達は何も言わない。空気であるかの様に振舞わなければならない。


「お前は自分に甘いから今回の様な件で彼らを責めるのが嫌なんだろう?」


ゼンが手を強く握り締める。


「わかりました」


ゼンにはそれしか答えられないのだ。その答えを聞くと「よし」とイザナは頷いた。その表情は嬉々としており、まだ何かあるという事が伝わる。


「では次だ。待たせたね」


イザナがそう言うと、隣の部屋との仕切りを思いっきり開く。そこには、この間聞いた赤髪の少女が驚いた顔をして座っている。


「白雪!?」
「ゼン、お前達は下がって良い。忙しいのだろう?」
「……!兄上…………」


ゼンは驚きながらも、何か強い意志を持った目をするとツカツカと近付いてくる。


「……では、そうします」


ガバリと、先程イザナがした様に仕切りを大きくはためかせる。そして少しして仕切りの先から出てくると一直線に入って来た扉へと向かっていく。


「失礼します、兄上。……行くぞ」


ミツヒデと木々を連れて、花揺らいの間を後にして行った。


「では俺たちも行くとするか」


イザナはゼン達が出て行ったのを確認すると白雪とユウに付いて来るよう指示したのだった。



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