「……ユウ、お前は休暇だったのでは無いのか?」
「えぇ、勿論、休暇、の筈でした」
「じゃあもう一度聞こう。お前は何をしてきたんだ?」
「……仕事をしました」


イザナはキリキリと痛む頭を右手で支えながらユウの話を聞いていた。


「……お前がたまたま寄った村で、悪徳カジノを潰した事は、納得はしないが、一応理解はした。それで?」
「殿下が心配なさっていた裏の金貸しルートまで探って、全部を正常化させて、戻ってきました」
「そこだ、そこなんだ。お前はどうして俺が悩んでいる事をこう簡単に終わらせるのか……」
「私だって初めての休暇を満喫したかったです」


イザナがなんとも言えない疲れ切った表情で溜め息を吐く。ユウだって、貰った休暇の期間で当てのない行き当たりばったりの旅をする予定だったのだ。
白雪の誘拐事件が無事に終わったし、最近は色々と忙しく精神が絶望的にボロボロになっていた。いくら数年間なりを潜めていたとしても、このままだとやばい、と自分でも理解していたのだ。
だから自分なりに精神のリフレッシュを図るつもりで何となく目に留まった村に滞在したのだがその場所が駄目だった。


「まぁ色々あり、それでやっぱり私は仕事をしていろ、と神さまが言っているんだな、と思ったので戻りました」


たまたま泊まった所が悪徳カジノに騙されたらしく、お礼として騙された分のお金を取り戻してあげようと思ったのだ。だが、調べていく内に"これ殿下が悩んでいた案件じゃない?"と気付いてしまったらもうやり切るしかない。
隅から隅まで正常化させて、次に行こうかと思ったら今度は村から出られない様になって、興味も無い結婚をさせられそうになって、むしろ城に居るより精神的に疲れたので諦めて戻ってきたのだった。


「殿下。城には居ますので、通常業務を無しにして下さい。何かあれば呼んでください、失礼します」
「あ、ユウ、まだ、話は……」


パタン、と音を立てて扉は閉まる。
余りのユウの疲れ加減にイザナは引き止めようとしたものの、言葉が続かなかった。


「……まぁいいか」


ユウのおかげで大きな案件が片付いた訳だし、彼女があそこまで休みを必要とするなら、と思ったイザナはユウの仕事をどうにか振り分けようと動き始めた。







──ドン。
ふらふらと歩いていたら丁度曲がり角で誰かにぶつかってしまった。


「っと、ごめんなさい」
「あれ、ユウ?」
「……ミツヒデ?」


ぶつかったのはどうやらミツヒデだったらしい。
ミツヒデなら文句も言わないだろう、と安心していだが、少し妙な感覚がユウはしていた。


「休暇を取ったと聞いていたが、戻ったのか。体調が悪そうだな、部屋まで送る。……いや、薬室に連れて行った方がいいのか?」
「あー大丈夫。寝れば問題ない」
「そうか。なら俺から後でゼン様にユウが戻った事を伝えておく。……っと」


ふわり、と体が地面から浮かんだと感じたら、ユウの目の前にはミツヒデの顔が広がっていた。


「そんなフラフラな状態で歩いて、ユウの綺麗な足が、転んで怪我でもしたら大変だ。このまま部屋に連れて行く。寝たかったら寝てもいいぞ」
「……は?」


いわゆる、お姫様だっこというものをユウはミツヒデにされていた。手に抱えているユウにあまり振動が来ない様に大切にミツヒデに運ばれる。


「ミツヒデって……こんな貴公子みたいな感じだったっけ?」
「何を言ってるんだ?体調が悪いならそのまま休んでおけ。丁寧に運ぶから心配はいらない」
「……あ、そう…………」


今私体調が悪いからなんかよく分かんない言葉に勝手に変換しちゃってるんだ、とミツヒデに少し申し訳なさを覚えながらもユウは心地良い歩きのリズムに合わせて寝てしまっていた。



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