王城ウィスタルのとある一室。
広々としている一室であるが、中心部分に大きな机1つしかないさっぱりとした空間であった。


「留守中それ程問題ないな。何か面白い話ないか?」


報告書をめくりながらユウの主であるイザナは問いかける。その様子は飽き飽きしているが、ユウが横にいる為にきちんと目を通している様だ。
問題があっても困るでしょうに、とユウは横で聞きながら思うもののそれを口に出したりはしない。報告者も1度考える素振りをすると顔を上げ、恐る恐る、といった様子で報告する。


「面白い…かどうかは分かりませんが、珍しい髪色の娘が城に入りました。これが見事な赤髪でして」
「……そうか」
「聞けば隣国タンバルンの出身で城に入る以前からゼン様と繋がりがあるようです。ご友人…なのだとか…」
「……あれの"友人"」


報告者の告げた内容にユウは心の中で「へぇ」と感嘆する。ユウに散々文句を言いながらもゼンはきちんと友人を作った様だ。
イザナは興味が無さそうであったが、友人と聞いて報告書をめくる手をほんの少し止めた。


「……成る程。報告ご苦労。下がって良い」
「はい。失礼します」


報告者が下がったのを確認してから、イザナは目を通していた報告を置いた。どうやら見終わったのだろう。書類から離れた顔は隣のユウの方へ向く。


「ユウ、衛兵の位置を変えてきてくれ」
「またくだらない事を……」
「あぁ、勿論ゼンには見つかるなよ?」


そう言いながらイザナはユウに1つの用紙を渡してくる。渋々ユウはそれを受け取った。
イザナのゼンに対する嫌がらせは前々から止まる事は無かったが、いつになったら終わるだろうか、と溜め息を吐く。むしろ、終わる事は無いのかもしれない、とユウはイザナに対して思ってしまうのだ。


「……ゼン殿下にはご帰還を告げなくても良いのですか?」
「どの位城の事に目を向けているのか知るのには丁度良いだろう?」
「そうですか」


趣味が悪いですね、と続くのをわざと止めてユウはしれっとした様子でイザナの横で書類に不備が無いか確認している。イザナもユウが何を言いたかったのか分かったのだろう、ははは、と声をあげて笑った。







「ユウ。ゼンの新しい従者にちょっかいを掛けておいで」


先程そうイザナに言われたユウは小さな小石を持って場内をふらふらと回っていた。
ユウがイザナから言われた事は1つ。
ゼンの新しい従者に小石をぶつける事であった。


「……まぁ、なんとも考えそうな事ではあったけれども」


人様に石を投げてはいけないと習わなかったのだろうか、と1度本気で考えてしまったのだ。イザナはユウの表情からそれを読み取ったのだろう、ユウなら技術的に問題ないだろう?とまで言われた。
まぁ、従者を名乗る者ならばある程度使える者だろうし、避けやすい所に投げてやれば良いか、とユウ自身も納得する。避けれない様な使えない奴ならば、イザナは問答無用で従者から外すだろう。
ミツヒデや木々の時とは違い、相手はどんな奴なのか分からないのだ。


「あ、見っけ」


聞いた話では、どうやら木の上を移動手段に用いているらしい。よく不審人物に間違われないものだ。
その情報を頼りにユウは木の上を見て回って居たが、直ぐに見つかるとは思っては居なかった。
木の上を移動手段に使うなんて、と思うユウだが、ユウだってその気になれば移動に木を使う事だってある。けれど気付かれない様には使うが。


「…………」


視線の先にある新しい従者は見た目からだとどうにも怪し過ぎた。
しかし仕事なのには変わらない。ユウは音を立てず、なるべく気配を消して近付く。


「くあーー〜あ。主達が忙しいと俺は暇だな。行動範囲は決められてるし。手入れする武器もないし……」


呑気なものだ、とユウが拍子抜けしてしまうのも無理は無いだろう。それ程までに木の上で寛いで居たのだから。
さっさと済ませよう、とユウは左頬を狙って小石を投げ付けた。直ぐに近くの木の陰に隠れる。
その瞬間に緩やかな空気が締まるのを肌で感じる。きっと木の上の者はユウの事を探して居るのだろう。
今、少しでも気配がバレたら捕まってしまう、そう直感的ににユウは感じ取った。


「オビ!出てこい。オービー10秒以内に……」


直後、呼ぶ声が響く。
その声の主はゼンであろう事がユウに分かった。木の上の者は視線を外すとゼンの所へ向かって行ってしまった。


「……オビ、って言うんだ。新しい従者は」


思っていた以上にオビは使えるらしい、とユウは笑みを浮かべる。緊張を解す為にふぅ、と一息吐く。


「さて、それじゃ私も行きますか」


ユウはくるりとその場を後にしたのだった。



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