洞窟に入り、待機していたゼン達によって白雪達は無事に海の鉤爪から離れられた様だった。その後、山の獅子と共に剣を振るう姿は力量の差をひしひしと感じさせるものであり、海の鉤爪は段々と人数を減らしていく。
わーわーと騒がしい船の下を見て隠そうとぜすにユウは大きな欠伸をする。ミツヒデに木々、それにオビとゼンの剣さばきを見ながら「頑張れ〜」と間延びした応援をするが騒がしさから本人達には聞こえない。
が、もちろん応援なのであって船の中ではユウの声援を訝しげに思う者も居るだろう。


「……やっと尻尾を出したか。親方も馬鹿じゃねぇからな」


なぁ新入りぃ、と男が腰に刺していた剣の柄を握りながらユウの側へとゆっくり寄ってくる。


「やだな、先輩〜そんなこと、」
「あいつらの反応からして赤髪とは知り合いじゃ無さそうだが、鹿月の方とは知り合いだろうなぁ!何か話てたもんなぁ」


山の獅子の弱みになるだうと確信して疑わない顔で男はユウとの距離を詰めていく。ユウは笑みを浮かべたまま両手を挙げた。その様子にへぇ、と感心した様に男はユウを捕まえ船の外側へ向けて首元に剣先を寄せる。


「お前らもう一仕事だ。船に何人か残ってる。1人も逃さん!」
「そうはさせねぇぞ!!」


ゼンが船に向かって1歩進もうとすると船の中からユウを捕らえた男が気味の悪い笑顔で静止をかけた。


「おい、山の獅子ィ。こいつが惜しかったら親方から距離を取れ!」


力強くユウがゼン達から見える様に引っ張られるがゼン達は不思議そうに首を傾げた。山の獅子も眉を顰める。


「悪いがそんな奴は知らない……そもそも人質にしては随分余裕そうな顔をしてるぞ?一般人のフリが随分似合わない奴を選んじまったなぁ」
「そりゃそうだ、俺は山の獅子なんかと関わりねぇからなぁ」


へらへらと笑いながらユウは手で否定する。男はくっ、と顔を歪めるとユウに回していた手を強く締め始めた。急に力が入った事によりユウは軽く咽せる。


「…………?」


ゼンは何かを確認する様にあたりを見回し始める。


「ちょ、先輩、苦しい」
「うるせぇ!お前に先輩言われる筋合いねぇ!」


船の上でごちゃごちゃと身内の言い合いをしている間にやってしまおうとオビが一歩踏み出すと、ゼンが慌てて止めた。オビは言われた通りに止まったが、いかんせん大きな声になってしまった為に船の上も静かになる。


「……な、なんだ、急に。……っ!?」


ユウから男の意識がゼンに向かった瞬間、ゴキリ、と嫌な音が洞窟内に響く。そして遅れて男のうめき声。


「駄目ですよ、先輩。人質から目を離しちゃ、ねぇ?」


ユウがへらへらと笑いながら蹲ってる男の背中を思いっきり踏みつける。そして船内に残ってる男達を見回してうん、と1つ頷く。


「ね、もう"海の獅子"の足掻きは無駄だからさ、余計な手間かけさせないで大人しく捕まってくれない?」
「……"海の鉤爪"だ、ど阿呆」
「あれ?まぁ名前なんてどうでも良くない?」
「お前は!……相変わらず、ほんとに、食えない奴だ」


急にゼンと親しげに話し始めたユウに怪訝そうな表情を皆向ける。その表情を見て、ユウはミツヒデへとピースをした。


「やっほう、ミツヒデ。相変わらず目が腐ってるね」


急に聞きなれた声が男から発せられた事によりミツヒデも変装したユウだと気付き大きく溜め息を吐く。


「おま、お前なぁ……」
「あ、やっぱりユウ、船の中居たんだ」


木々も驚きながら剣を鞘へとしまう。もう仕事は終わったと言わんばかりの様子にユウは苦笑するが特に咎める様な事はしない。


「……で、どうかな?大人しく捕まってくれる?」


男から取り上げた剣を肩に担ぎながらまだ残る船員へと声をかけた。







「こんの!!!!阿呆!!!!」


ひぇ、と小さい悲鳴を上げ体を縮こまたユウは大人しくゼンへと謝る。山の獅子の面々は海の鉤爪を拘束しており、ゼン達はユウへの説教の為免除させて貰っていた。


「……とても申し訳なく思っております」
「いやーそれにしてもユウ嬢凄いねー!あんな特技あったんだ。もう一回やってよ」
「"そりゃそうだ、俺は山の獅子なんかと関わりねぇからなぁ"」
「おお!」
「ユウ!!!!」


オビにつられてノリノリで声色を変えるとそれもまたゼンの怒りに触れたらしい。お前は本当に反省しているのか、と言いたげに顔を顰められた。ちり、とした痛みに左腕を見ると木々が呆れた様に布を縛り付けている。


「ユウ、最近休んでる?」


何かを確認するように木々がじっとユウの目を見つめてくる。え?と戯けながら「寝てる寝てる」と笑顔で答える。きっと彼女が求めている答えでは無いにしても今のユウに答える気は無いのだ。


「それよかゼン、いいの?早く安心させてあげなくて?」
「…………分かった、この話は終わりにする。ただ、また、次、俺の前で、同じ事をしたら、今度こそ、怒るからな」
「はいはい、殿下の仰せのままに」


ゼンは木々とミツヒデを連れて上へと上がっていく。白雪は上ではらはらしながら待っているんだろうな、と思いつつ最後の最後に腕を折った先輩からの投げナイフに当たってしまった左手を大事に抱えながらユウは息を吐いた。
下は少し湿っている岩。そんな事御構い無しにユウは寝っ転がる。


「……オビさん、君も随分難儀な性格だねぇ」
「…………何の事?」
「ははは、いや、難儀な性格になった、と言った方が正しいね」


イザナは何て言うかなぁ、と帰った後の説教に今の時点から怯えながらも、目を閉じひんやり湿った石の感覚を楽しむのだった。



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