ふんふんと鼻歌を歌いながらユウは甲板を歩き回る。ユウは楽しくて楽しくて仕方がなかった。


「頭ァ!前方に三隻船です」


見張りの声が響く。先程連れてこられた女は見慣れた顔をしていた。ユウが居なくてもゼンはどうやら白雪を見つけたらしい。後はどうやって周りにバレない様に、自然に白雪に接触しようかと考えてた所だったので、木々か来てくれて助かったのだ。


「後はゼンがどうにかするでしょ」


時の流れに任せよう、と空を仰ぐ。髪先を弄り、潮風で髪が傷まないといいなぁと少し肌寒くなった海上から逃げる様に中へ戻るのだった。
ユウは自分の後ろ姿を男が見ている事に気付かなかった。







ガチャリと扉が開く。


「"山の獅子"か?」
「まだ分かんねぇです」
「"獅子"どもならあのお嬢ちゃんとの関係、直接反応見て探ってやるか」
「"獅子"が黙れば稼業がやりやすくなるぜぇ」
「こっちにゃ鹿月もいるしな」


皆にやにやと気味の悪い笑顔を浮かべていた。その笑顔は自身の勝利を確信している様である。


「お頭〜!ご要望通りに連れて来たぜ〜」


先程白雪を引っ張った様に腕を掴んで男は白雪を甲板へと連れてくる。気怠げに見えるがしっかりと白雪の腕を掴んでおり、隙を見て腰にある短剣を取るのは難しそうであった。白雪はじっと男の様子を伺うが男は目線を合わせようとしていない。


「……冗談じゃねーぞ。ありゃ"獅子"じゃねえ、商船だ。それも全隻海兵の旗掲げて進路を塞いでやがる」


何だあの数、と女の近くで双眼鏡を覗き込んでいた男も声が少し震えている。白雪は部屋に閉じ込められている木々と鹿月を思い浮かべて自分を落ち着かせるように大きく息を吸い、吐いた。


「おい…………先頭で率いている一隻は国の船じゃねえか!?」
「どうします、頭」
「ついてねーな。なんであんな数に出くわさなきゃならねぇんだよ。…………鹿月が王城から連れ出したあのお嬢ちゃんを追ってんだったら笑うけどな」


ははは、と乾いた笑い声をあげるが、表情が青ざめている時点で予想だにしていなかったことが分かる。白雪を掴んでいる男は手荒く白雪を甲板の先へと押す。白雪が慌ててバランスをとって顔を上げると確かにいくつもの船が見えた。


「海賊ども!!貴様らが手を出した赤髪の娘はこのタンバルンでただ一人、"王家の友人"の称号を与えられた者だ!!このまま逃げられると思わぬ事だな」


その船の1つからここ数日で聞き慣れた声が響く。


「称号……"王家の友人"!?」
「なんだそりゃ」
「あの赤髪が……?」
「聞いてねえぞ。あんな数相手にしてられっかよ」
「──頭!西へ抜けれます!」


ざわざわと船の中が騒ぎ立てるが、ラジの声に白雪は緊張で硬くしていた表情を緩く崩す。木々が来てくれたのもあるが、ラジの声を聞き沢山の人が自分達な為に協力をしてくれている事を改めて実感出来た。


「クソッ、おい!顔を出すんじゃねぇ!中に戻れ!」
「ラジ王子……!」


ぐい、と先ほど木々を連れてきた男が白雪の首に腕を引っ掛け力技で白雪を下げようとする。何かが風を切る音がなると白雪の右の頬に鋭い痛みを感じた。


「さっさと戻んな、お嬢ちゃん」


お頭と呼ばれる女の刃物が手に戻ると共にたらりと血が頬をつたった。ひゅっ、と白雪が恐怖によって息を吸い込み小さく足が震えだす。それを満足そうに白雪を掴んだ男が「新人」と叫びながら白雪を投げ飛ばした。


「お前の仕事だろ!しっかり見張っとけ!」
「すみませーん先輩。ありがとうございまーす」


緩く返事を返し、白雪をつれて男は部屋へと戻る。背後から聞こえる船員達のやり取りの声が段々と小さくなっていった。



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