ユウの1番得意な事は何か。
そう聞かれたらユウはにっこりと笑い、人を騙す事、と言い切るだろう。


「なるほどね、お嬢ちゃん。結構やるじゃないの」


はっ、と感心した様に目の前の女は笑った。


「どうです?結構やるでしょ?お買い得ですよ」
「断る、と言ったら?」
「あなたみたいな人は使える人と使えない人の見分けなんて簡単でしょう?わざわざ揺すろうとしても無意味ですよ。私が欲しいのはイエスかはいの答えだけです」


女は耐えきれずと言った様子で大声で笑いだす。周りの男達はじりじりとユウとの距離を詰めながら各々武器を取り出すが、それを女は手だけで制した。


「気に入った。確かに短剣をそんな所に隠す様な馬鹿は他には居ない。けど、使えないと判断したらかっ飛ばすからね」
「それは一生来ませんけど。まぁ分かりました」


ユウの返答にまたも女は大笑いし始めた。







柱に縄で固定された赤髪の娘である白雪はただ呆然と視線の先を見ていた。


「……っ、あ、あなた達、早くやめて!!こんな……こんな…………!」


悲鳴にも近い声が白雪の口から発せられるが女はぐびぐびと喉を鳴らして水を飲んでいる。


「お頭、数回目なんでそろそろ上げないとあのガキ本当に死にますよ」


短髪の黒髪の少年が大欠伸をしながら女へと声をかけた。女もそれを聞いて口元を拭いながら「上げろ」と指示し、ぎゅっ、ぎゅっ、と水分を含んだ紐が巻き上げられる。部下であろう男達がまるでゴミを捨てる様に船の甲板に鹿月が投げ落とす。その衝撃で鹿月の口からは大量の水が出て、必死に呼吸を正そうとむせ込んでいた。


「ははっ、そろそろ言う気になったかよ。この林檎頭とどう言う関係か」
「だ、から……俺は、何も聞いてない…………って、言ってる、だろ!依頼か、何かだよ!」


埒が明かねえな、と吐き捨てる様に女は唾を吐き出す。


「じゃあもうあの獅子ども黙らせる人質になるかどうか分かんねぇなら……お嬢ちゃん、今すぐアンタのご主人候補でも選びに行こうか」


ゆっくりと白雪に女は近付き、持っていた武器で縄だけを綺麗に切り刻む。ざくりと綺麗な音が鳴った。


「あんた目立つからね。どっか遠ーくに飛ばしてやるよ」
「冗談じゃない……絶対行かない!」


女へと僅かながらの抵抗を見せる為に白雪は睨みつける。けれどそんな些細な行動は女からしたらただの風の音の様で聞き流すが、その白雪の言葉を聞いて1人だけ吹き出し、大笑いし始めた。


「ぷ、ははっ、あはははは!あーもう我慢出来ねぇ!何が"絶対行かない"だよ、行かない為の行動が出来ると信じて疑わないその目。……誰かがきっと助けてくれると信じてるその目」


それは鹿月を上げるよう言っていた男だった。
ひとしきり笑い終わると白雪の前でにっこりと笑った。


「本当むかつく。俺、あんたみたいな偽善者だーい好き。…………お頭ァ、この娘、俺にやらせてよ。高く買い取らせるからさぁ!」
「てめぇ、新入りごときに任せる訳、」
「お頭ァ!!」


白雪の目からでも分かる、男は随分と冷めた目をしている。一体どうしたら、どんな悲しい事があったら、これほどまでに綺麗に冷たい目が出来るのだろうかと見惚れる程であった。
先程鹿月を上げた男は、新人と呼ばれた男の言葉に怒鳴り散らかそうとしたタイミングで下から女を呼ぶ声が聞こえる。


「なんだよ」
「お客だせ!」


傍観していた女だが、タイミングの悪さに大きな舌打ちを隠そうとせず行った。


「間の悪い。……新入り、あんたの好きにしな。分かってると思うけど傷だけは付けんなよ」
「はいはい。俺がわざわざ商品価値下げる真似するかよ」
「そいつら部屋にぶち込んどきな。戻ったら船出すよ」
「了〜解」


男は白雪の腕を掴み立ち上がらせる。けれど白雪も良いように操られる訳が無く柱から離れまいと力を入れた。
それを予想していたのか男は腕の力を強める事無く白雪へと視線を合わせ、鹿月へと視線をずらす。


「別に俺はお前さえ傷付けないよう言われてるからあのガキには何したって良いんだけど、面倒臭いのは嫌いでね。……素直に動かねぇってんならガキに傷が増えるだけだせ?」
「っ!……脅そうって?」
「脅しも何も事実を言ってるだけ。別に片方の脚の筋切っても死なねーしな。おい、ガキ。てめぇは自分で付いて来れるよなぁ?来れねーならそんな足いらねぇもんなぁ」


白雪の腕を掴んだまま鹿月の側へ向かい、白雪の腕を離してしゃがみ込み耳元で何かを囁く。1番近くにいた白雪にさえ何を言っているのか聞こえなかったが、鹿月は大きく目を見開き小さく頷いたのを確認すると腰に巻いていた短剣で鹿月を縛っていた縄を解いた。


「素直で良いねぇ。やっぱり面倒じゃないのが1番だ」


男が短剣を仕舞うと白雪の腕を掴んで中へと進み始める。抵抗するかと思われた鹿月は顔を下に下げたまま怯えた様に白雪の後ろをついて行く。それを不思議そうに見送った男達は後ろ姿が見えなくなると急いで出航の準備をし始めた。



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