国王に目通りした後、早速行動をする為にラジとサカキは資料を取りに行っていた。その間ゼンはそわそわとラジ達が到着するのを待つ。 「ゼン殿下!これを」 「……俺の」 ミツヒデがゼンに渡したのはゼンが白雪に渡していた時計であった。ゼンは確かめる様に握りしめる。 「白雪の部屋にあったそうです。騒動があった場所に落ちていたのをオビが受け取っていて……。置いて行ったようです」 「そうか……」 何か思いつめている様にゼンが言葉を零すと、木々とミツヒデが息を合わせてゼンの背中を叩く。聞いていたユウもいい音鳴ったな、と感心する程のものだったのでゼンが悲鳴にも似た声を上げたのは仕方がないだろう。巳早は王子であるゼンに何をしているのかと、非難の声を荒げた。 「お前ら……なにす、」 「冷静でいて下さるのは大変助かりますが殿下」 「あなたは自ら火を溜め込んで火傷しかねないご性分ですので」 ゼンも少し自覚していたのだろう、むぐ、と口を一度閉じると溜め息と共に体を起こした。 「…………それで水を差してくれた訳か?……大変結構」 「……強すぎました?」 「まぁな。ミツヒデ、お前帰ったら懲罰房行きだ。覚えておけ」 「えっ、ちょ、懲罰……!?え!?俺だけ?」 「賛成です、殿下。それからもう1つ」 木々が小さな紙をゼンへと渡す。 「オビから伝言付きでした」 ゼンがその紙を開くと、目を見開き、やがて納得したかの様に紙を閉じた。何か掴めたのだろう、というのがユウにも伝わる。 「ゼン殿、待たせた。"山の獅子"という自治集団を訪ねる。族退治でよく聞く名なのだが……"海の鉤爪"とも何度かやり合っているらしくてな」 「情報を持っているという事か。……ラジ殿、こちらも少々良いか?…………1つ当てが出来た」 「クラリネスから一緒に来たもう2人は?」 「これから下で合流する」 「……殿下」 ユウがタイミングを見計らって声をかけると、ゼンは不思議にユウへと顔を向ける。 「別行動の許可を下さい」 「またか!!」 呆れた様にゼンは顔を覆った。流石に看過出来ないのだろう「駄目だ」と首を横に振るが、ユウもそれを予想していたのか小さく息を吐く。 「私にも1つ当てが出来まして。……それにそちらが"ハズレ"だった場合の時も考えて別方向から攻めてみたいと思ってます」 むぐっ、とゼンは口を塞ぐ。ユウの言っている事も理解出来るのだろう、ゼンの様子をみてあと一押しだな、とユウは感じた。 「殿下、なら俺が彼女について行きます。信用ならないかもしれませんが、これでもタンバルンには詳しいですし」 「あ、1人で結構です。むしろ巳早殿は殿下について行って欲しいです。……何か、"小さな情報でも思い出したら"そちらの方が良いですし」 ユウが何を言いたいのか不思議そうにしていた巳早だが、何か心当たりがあるのか目を逸らし頬をかきはじめる。そんな巳早を放っておいてゼンはまだ何か腑に落ちない様に少し唇を尖らせた。 「ゼン」 名前を呼ばれゼンはぴくり、と小さく肩を揺らした。イザナの側近をしながらゼンの講師も一時期勤めていたユウにとってはどうしたらゼンが納得、もとい言う事を聞くのかある程度熟知している。 「口をすっぱくして言ったよね、"目的の為に使えるものは使える非情さを持ちなさい"と。私を1人で行動させる不利益と、もしハズレだった場合の不利益を考えたら分かるでしょう?」 「……あーもう!好きにしろ!!そもそも俺がお前に口で勝てる訳が無かった!」 「ちなみにそっちがハズレでこっちもハズレの可能性もある程度は考えときなよ」 じゃ、と手を軽く振ってユウは馬小屋へと急ぐ。もしサカキの言う通り海の鉤爪が関わっているとしたら、海へ出る前までになんとかしなければならない、時間勝負であったからだ。 残った面々はユウが言った最悪の状況を想像し、急いで行動を開始した。 |