「通して頂き感謝する、ラジ殿。白雪の事はサカキ殿に伺った」

息を切らしてゼンはラジへと告げる。ラジは何とも言えない様子で目を泳がせており、ゼンとラジの間で何かあった事は確実であった。けれどユウにとって今重要な事ではないな、と流す。が、ゼンが急に頭を下げるのを見てぎょっと目を見開き、ラジもゼンの突然の行動に驚いた様だ。


「申し訳ない。白雪を標的とする不穏な話は耳に入っていたがクラリネスで動きがあるかと探っていた。……そちらにも話しておくべきだった」
「いや、すまぬ、ゼン殿。こちらが呼んだ客人であったのに」


ゼンはゆっくりと顔を上げた。


「白雪は……ここでの数日有意義に過ごしていたか?」
「あっ、ああ。そうだな。興味のあるものを見つけて過ごしていたな……」
「笑っていた?」
「うむ」


流石王子という程の柔らかい笑みを浮かべたゼンは一安心した様に良かった、と小さく零す。その顔は前まで見てきたゼンの顔とは違い本当に白雪を想ってるのがユウにも感じ取れ、改めて白雪を取り戻さなければと強く思う。


「早急に動きたい。白雪の付き人としたオビは気を失い眠っていると聞いている。部屋に通してもらえるか?」







「おらぬぞ!?確かにこの部屋か!?」
「は、はい!あの朝まで休みたいと伺って……」
「一度目を覚まし状況は聞いているそうです」
「____追ったのか」


ラジはいるはずのオビがいない事で侍女に声を荒げたが、流石はオビを側近に置いたゼン。オビの行動はある程度予測出来たのだろう。


「王城に侵入してまでのこの所業。相手はある程度大きな集団がしれませんね」


サカキがラジの後ろから、ある程度確信を持った言葉を放つ。ゼンもそれに気付き話を進める様に促した。


「何か心当たりが?」
「可能性のひとつですが、東の海にのさばる面倒な連中がいます」
「"海の鉤爪"か!?」
「お見事です、ラジ王子」


木々とミツヒデも名前を聞いた事があるのだろう、2人で目を見合わせる。"海の鉤爪"と聞いてユウは静かに頭の中を回転させ始めた。その間も勿論サカキの話は続いていく。


「勝手に海域の通行料をぶんとったり、上陸審査の観察を潜り抜ける為などの裏取引きもする賊共です。そこで扱うのが金だけではなく____何か能力に長けた者や器量のいい者……目を引く容姿の者は連中の行う釣りの道具か餌というわけです」
「例の小僧は狙う理由に赤髪は関係ないと言っていましたが」
「事実かどうか」
「闇雲に探すより可能性を辿る方がいい」
「"海の鉤爪"を探ってみるのならまず山に行く方がいいかもしれません」
「山!?」


ゼン達が驚愕の声を出した時、ユウも驚いて顔を上げる。丁度扉から従者がサカキに何かを伝えている所であった。


「ラジ王子。ゼン・ウィスタリア様をお連れするようにと陛下の仰せです」
「父上が!?」
「こっ……国王!?」
「いや、お前は目通り出来ないからな」


今まで静かに事の転末を見守っていた巳早だったが、思いもしなかった名前に驚きを隠せなかった様だ。巳早は何かを感じ取ったかの様にユウの方へ顔を向けたが、ふいとユウから目線を外された。


「それじゃあ行くか」
「申し訳ございません、殿下。私はここで残らせて頂きます」


ゼンがサカキに連れられて進もうとしたのをユウは止めた。木々やミツヒデさえも驚いてユウの顔をまじまじと見つめる。


「私はゼン殿下の元では"ただの侍女"なので国王にお目通りする地位ではございません」
「……なっ」


何をいけしゃあしゃあと言ってるのかとゼンは顔を歪める。イザナの側近としての地位があるユウは木々とミツヒデも行ける場所に行けない筈は無い。それを口にしようとゼンが声を発するよりも早くねじ込む様にユウは言葉を紡ぐ。


「それに、個人的に気になる事がございまして」


ユウのその言葉にゼンは目線をユウと合わせる。じっと顔を見つめ、ユウが何を言いたいのかを何となく理解して小さく溜め息を吐いた。


「……分かった。必要な物は?」
「タンバルンの地図を見せて頂ければ、と」
「ラジ殿。用意して頂けるだろうか?」


ラジは不思議そうにしながらも頷き、近くの兵に地図を持ってくる様指示した。それを確認し、今度こそゼン達は国王の元へと急ぐ。


「……えーっと、ユウ殿」
「今の私はただの侍女なので先程の様にお話し頂いて結構ですよ、巳早殿」
「あー、……そっちの方がありがたいのでそうさせて貰うわ。で?何が気になってんの?」
「別に大した事ではありません。ただ、探しに行くとなると地図くらいは頭に入れておこうと思っただけです」


いやだから、と巳早が続けようとした時にラジに指示をされた兵が地図を持ってきてくれた。ユウは礼を言ってそれを受け取ると広げてじっと眺め始める。それをただ見つめる巳早だったが、少ししてユウが地図から顔を上げると目が合った。


「……そういえば、巳早殿はタンバルンに詳しいんでしたっけ」
「まぁ」
「ここから1番近い港ってどこですか?」


地図を見れば分かるだろうに、と巳早は思いながらもユウの前に広がっている地図の一部を指差した。それを見てユウはふぅん、とどうでも良さげに頷く。その態度に巳早はむかむかと胃が荒れ狂う感覚になり、一言言ってやろうと口を開いた。


「あのさぁ!あんた、」
「では船がよく止まる港は?外の人が多い所だとなお嬉しいです」


ユウは地図から目を離す事なく続ける。巳早は大きな溜め息を吐きある港を指差す。そして指した後に少し指が止まった。
「そういえば、この港は……」と口から言葉が溢れそうになり慌てて閉じる。自分にとってはまだ何も関係ないのだから無駄に話す事ではない、と。


「…………ありがとうございます、助かりました」


先程とはうって変わりユウは口角を上げて巳早へと礼を言う。その態度の変わり様を不思議に思いながらも巳早はユウの側にある椅子へと腰を下ろした。



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