「ユウ!!入るぞ!」


ドンドンとノックが数回されると中の返事も待たずに扉が開いた。ユウはベットから飛び起きると扉の方へと視線を移す。


「……え?ゼン?」
「頼む、兄上に通してくれ!」


息を切らしてゼンがユウへと頼む。何事か分からないがゼンが切羽詰まっているのは分かった。ユウはすぐ了承すると身だしなみを整えずにイザナの寝室へと急ぐ。いくら兄弟だからと言っても真夜中の面会には従者を通さなければいけない。


「イザナ殿下、失礼致します」


一応声を掛けるとユウは扉を開けた。やはりイザナも既に床についている。仕事で疲れているのに少し申し訳ないなと思いつつ起こす為にベットへと近付く。


「イザナ殿下」
「……どうした」
「ゼン殿下が急ぎお会いしたいと」


イザナは無言で起き上がり、ユウから手渡された羽織を着てゼンの前へと立つ。ゼンの息はまだ整っていなかった。


「何の用だ、こんな時間に。ゼン」
「兄上、実は」







なるほどな、とイザナは頷いた。ゼンの言葉を聞いて眠気も過ぎ去ったのだろう。


「白雪を狙う者達か。話は分かった。だがゼン、お前がタンバルンへ行く事は許可しない」
「でしょうね。ですが行きます。許可を、兄上」


ゼンは分かっていただろう、けれどしっかりとイザナを見つめ言い切った。けれど何処か急かそうとしている様子も伝わる。


「……どうにか足を地面にくっつけているという顔だな。俺の許しなど得ずに勝手に行けば良かったんじゃないか?」
「殿下」
「冗談だ。あの娘へのタンバルンからの招待を受けたのは俺だ。報せと護衛の兵は出す」


話の内容からして事を急ぐものであるのにイザナはゼンをからかう様に言葉を並べる。流石にユウも黙って聞いてはおれず、咎める様にイザナの事を呼んだ。ゼンの様子からしてそう簡単に折れる事はないだろう、と踏んだユウはポケットから使い古された手袋を取り出しはめる。


「タンバルンの了承を待っていたのでは時間がかかり過ぎます!」
「だからと言って王子であるお前が行く必要はない」


イザナの言っている事は最もな事であった。いくら白雪のことをゼンが連れて来たからといっても王子と唯の薬剤師にすぎない。そんな人物をゼンが迎えに行くことはおかしいのだから。


「行きます。白雪は私が妃に望む娘です」


ゼンははっきりと言い切った。ゼンらしい真っ直ぐな言い方は小さい頃から何も変わっていない。


「……そこまで言うのなら行けばいい。ただし、お前の身に何かあって俺が動かねばならないような事になったらあの娘を城に戻す事は無いと思え」
「っ!ありがとうございます!兄上!」


頭を下げると時間が惜しいとばかりにゼンは踵を返した。ユウは感覚を確かめる様に手袋がはめられた手を動かす。


「イザナ、私も行くよ」
「……なんだ。お前も白雪が妃に欲しいと言うつもりか?」


馬鹿じゃないの、と呆れた声をユウは出した。ユウを見つめるイザナの目にユウもしっかりと見つめ返す。


「ゼンがあそこまで真剣に考えてるなら私も力を貸さないと。2人の約束は破ってないでしょ?」


だってイザナは動かないんだから、といけしゃあしゃあ言い切ったユウにイザナは溜め息を吐いた。


「全く。お前達はそういう所がそっくりだ。好きにしろ」


ユウの返事も聞かずにイザナはベットへと向かったのだった。



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