白雪とオビが城を出て数日後のクラリネス王国、王城ウィスタルでは鳥使いの修行の為出ていた兵とキハル達が戻ってきていた。
コンコン、とイザナはゼンの執務室の扉を叩く。


「木々。1人か」
「ゼン殿下は今鳥使いの隊の件で出ています」
「あぁ、あれか……」


イザナとユウが部屋に入るとゼンは居らず、木々のみが本棚を整理していた。イザナの後ろからユウが出て木々の隣へ並ぶ。


「……ユウどうしたの?」
「手伝うよ。もー座って同じ作業疲れちゃってさー。こう立って出来る仕事が今はありがたい。息抜きさせて〜」


やれやれ、と疲れた様子を隠す事無くユウは深い溜め息を吐いた。イザナはユウを咎める様な事は言わず、ゼンの机の上に纏められている書類を確認する。


「へえ。ちゃんとやっているようだな」
「何か御用でしたか」
「肩が凝ったから机仕事を2、3押し付けにな。まあ置いていくよ」


パサリ、と軽い音を立てイザナは持っていた書類を未処理の塊の上に重ねた。


「ではな。戻るぞ、ユウ」
「はぁ〜い」


間延びした返事をしながら近くにある本の順番を手慣れた様子で変え、ユウは木々が持っている本の上に小さなチョコレートを乗せた。


「……?」
「プレゼント〜。木々頑張ってるからね。ちゃんと休憩しなよ」


じゃあね、とユウは首を傾け肩をぐりぐりと回すと先程まで見せていた疲れは何処かに消えたかの様に背筋をしゃんと伸ばしてイザナと共にゼンの執務室から出て行った。何故2人はゼンの執務室に来たのか分からず木々は首を傾げる。書類仕事など別の者に頼めば良かった筈だ。イザナが偶にゼンをからかいに来る事はあるが、それにユウは着いてこない場合が殆どである。


「…………何か用があったのかな」


ぽつり、と木々が言葉を零した時、丁度執務室へと戻って来ていたミツヒデがイザナの後ろ姿を見つけていた。


「あ、っれ……?」


反射的に追いかけたミツヒデが階段を登り、角を曲がるとそこにはイザナの姿は無かった。


「何か用か?」
「うお!!!……っ」


ミツヒデは慌てて自身が発した言葉を隠すように口元に手を当てる。イザナの横でミツヒデの反応を見ていたユウは耐え切れずに吹き出した。ミツヒデは気を抜いていると素が出やすいのだ。


「ーー1つお訊きしたいのです。……イザナ様はゼン様と白雪を試しておられるのですか」


息を呑み、おそるおそる尋ねたミツヒデの問いにイザナは素直に肯定した。ミツヒデはイザナが素直に答えた事に目を大きく見開く。


「何を面食らった顔をしている」
「……いえ、かわされるかと」
「別にお前に隠しておきたい事じゃない。このままあの子達が折れようが退屈な見世物だったと思うだけで片付く。…………まぁ、どうやらユウは少しは気に入った様だが、な」


自分には関係ないと意識していなかったユウは自身の名前を呼ばれ慌てて顔を上げる。イザナにはユウが鳥使いの一件から少し白雪に対する敵対意識がほんの少し薄れている事に気付いていた。何が有ったかは聞かないもののユウ好みの"何か"が妨害工作の中で起きたのは確かだろう。対人において優秀なユウであるが、一部扱いにくい所があるからな、と軽く息を吐いた。


「ゼン様は白雪と出会い強くなられています!そしておそらく白雪も」
「この先どう転ぶか、いやどう動くかだと面白いな」


外を見ていたイザナが何かを思い出したかの様にミツヒデの名前を呼んだ。


「ここに立て。あぁ、ユウは動かないでいい」
「はっ……?!」


不思議に思いながらもイザナの言う通り側に寄るミツヒデは庭に居たゼンと目が合う。ゼンの位置からだとイザナとミツヒデが2人きりで話している様に見える筈だ。


「おっと逢引がばれてしまったな」
「イザナ様!!」
「主人のところへ行け」


楽しそうにイザナは踵を返し廊下を歩き出す。


「……ミツヒデ、早くゼンの所に行ったら?誤解してると思うよ?」
「分かってる!」


ミツヒデがゼンの場所まで飛び降りる。2人が話し始めたのを確認してユウは丁度見えなくなっていた柱から背中を浮かせた。ミツヒデは素直にユウの言う通りゼンの元へと急いだが、ユウもイザナの側に居た事をゼンに見せればまた少しは変わっただろうにと呆れながらも足を動かし始める。


「さっきのは別に私に振らなくても良かったんじゃないですか?殿下」
「いや何、事実だろう?」


はは、と軽くイザナは笑う。事実故にユウは何も言い返す事が出来ずに口を閉じた。



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