其処は小さな馬車の中であった。
窓の外を見ようにも、外から中が見れない様にカーテンが閉められている。ユウにとって馬車の中で本を読むなんて自殺行為は出来ない為に、時間を潰す事なく目的地へ着くまで待つしか無かった。
逆にユウの目の前に座っている人物は無表情で手元の本に目を向けている。


「…………」


そう、つまり、やる事が無いのだ。
その為に目の前の人物をただ観察というか、視界に入れている事しかやる事が無い。1度は昼寝でもしようかと思ったが、そんな事を目の前の人物が許す筈も無い。


「……なんだ、暇か?」
「…………よくご存知で」
「ご存知も何も、俺とお前の仲だろう。……本でも貸してやろうか?」


視線を感じ取ったのだろう、目の前の人物は本から顔を上げた。あえて分かりきっている事をわざわざ聞いてくる辺り、彼の性格の悪さが分かる。
嫌味にも軽く返し、読まないと分かっているのにわざわざ今まで読んでいた本をユウに向けてくるものなのだからユウの機嫌は悪くなるのも仕方ないだろう。


「……くっそ性格悪いな」
「ははは、何を今更。それにお前の方が性格が悪いだろうに」


小さく漏らした声も、この小さな馬車の中では意味を成さない。
他の人からなら許されないであろう、砕けた言い方にも眉1つ動かす事なく、むしろ笑みを浮かべる程だ。このやり取りからも2人の仲の良さが察せる者もいるだろう。


「……それは否定しませんが」
「先程と同じ様に喋っても構わない、と言っているのに」
「成る程、どうやら主様は嫌味を言われたいらしい」
「ふっ、……くくく。やはりユウと話すのは楽しいなぁ」
「私は楽しくありませんが」


目の前の人物が先程まで読んでいた本は傍に置かれており、ユウとの対話を愉しんでいた。組んでいた脚を組み直すとふむ、と1人頷く。


「まぁそうカッカするな。もう直ぐ着くんだ。今は暇かもしれないが着いたら着いたで忙しくなるぞ」
「はいはい。知ってますよ」
「それもそうか。……少し休め。お前、ここ最近寝てないだろう?」


ユウが当たり前の事をわざわざ言わなくても構わない、といった顔で見てくるのを察していたのだろう。目の前の人物は直ぐに本題に入る。
ユウは苦虫を潰した様に顔を顰めた。


「…………よく、ご存知で」
「ははは、先程も聞いたな」
「別にこれくらいどうって事無いです。仕事ですし」
「……まぁ本人が良いのなら構わない」


話は終わりだと言いたげに目を伏せると、傍に置いていた本をまた手に取り紙をめくり始める。
それを見届けると、見えもしない窓の外にユウは視線を移す。
がたり、がたりと馬車は休む事なく道を進んでいく。

その馬車の行き先はクラリネス王国、王城ウィスタルであった。


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