「……お前、はるばる東から何しに来たんだ?」


ぱらり、とユウが渡した本を捲りながらゼンはミツヒデに聞いた。暇潰しの様であり、興味が無いのが声色から分かる。


「何、とは……貴方にお仕えする為にです。ゼン様」
「それは聞いた」
「……私はあまり歓迎されていないようですね」


当然だ、と言いたげに返事を返す事無くページを進める。求めていた答えでは無かったのかゼンはミツヒデへの興味が一切無くなった様であった。
イザナに言われたから、というのも入っているが、ミツヒデの態度が気にくわないのであろう。ユウにとってもわかり易すぎて苛々してくるのだから。


「剣の腕"だけ"は立つ様ですよ、ゼン様」
「ーーっ、お言葉ですが、"だけ"とは失礼では無いでしょうか」


主人の前であるのなら下手に口喧嘩へならない様に配慮すべき所を思ったままに言い返してくる。側近としての心構えがまだまだなのにこれでイザナの側近になれると思っているのが不思議な程だ。


「それは失礼しましたミツヒデ殿」


さらり、と謝罪の言葉を告げる。ユウの返事に拍子抜けしたのかミツヒデはい「い、いえ」と返事を返した。それに合わせてゼンも持っている本を閉じ、立ち上がる。


「どちらへ?」
「散歩だよ」
「お供します」
「いらん」
「ですが、」
「い、ら、ん!!夕方には戻る!!」
「当分はいつもお側にいるよう言われています」


扉前でゼンとミツヒデが言い合いを始めた。ユウは渡すべき物は渡せたのでゼンがどこへ行こうが止める気は無く、ただ見守っている。一生懸命なミツヒデの対応にゼンは苛立ちを隠そうとせず顔をしかめた。


「……そんな事言って、お前本当は兄上に仕えたかったんだろ?…………ほら、当たりだ」
「____いえ!私はっ……」
「昨日兄上と別れた時そんな顔して見送ってただろうが」


バレバレだぞ、とトドメを刺すように淡々とゼンは告げた。続けて「なぁ?」とユウに同意を求める様に振り向く。その動作につられてミツヒデもユウの方へと向いた。


「……まぁ、そうですね」
「…………」


ミツヒデは黙り込んでしまった。ゼンはユウへ投げかけ、ミツヒデの意識がそっちへ移った瞬間ゆっくりとその場を離れ走り出していく。流石にミツヒデもそこまでの阿呆では無く、慌ててゼンの後を走りついて行ってしまった。
遠くから2人の言い合う声が聞こえるがユウは軽く肩を回すと2人とは逆方向へと歩き出した。







それから少しして、毎朝ゼンとミツヒデが剣を撃ち合う様になる。廊下を歩く途中で外へ視線を向けると、2人を少し見る事が出来る、とメイド同士で話していたのを丁度ユウも聞いた。
ふーん、と感心しながらイザナの書斎へ向かい、扉を開けるとイザナがミツヒデと話し込んでいた。


「……あぁ、ユウか。悪いが少し待ってくれるか」
「はい。ミツヒデ殿、私は居ない方が良いですかね?」
「ご一緒でも大丈夫ですよ」


話かけると少し緊張した様子だってミツヒデだが、ユウが存外普通だったのか安心した様に笑った。成る程、これはメイド達が噂する訳だ、と1人納得しながら頷く。
ではお言葉に甘えて、と部屋に入って扉を閉める。


「ふむ、弓矢番の子供か……。確かにその位の役人となるとそう手間なく採用されるだろうな」
「城の中や奥の敷地へは入って来られないとはいえ、ゼン様が出向く事で接点は充分に彫られています。ここ数日は会っていないようですが少し警戒していた方がよろしいかと……」
「会っている場所をはじめに探し当てたのは運が良かったな、ミツヒデ」


ふむふむ、とユウは2人の会話を聞いていた。話からしてゼンが弓矢番の子供と会っている、という事だろう。褒められたミツヒデは嬉しそうに頬を緩めた。


「は、いえ。まだ城の地図が曖昧な部分がありまして……手当たり次第に歩いていた所にゼン様が」
「そうだろうな。あれの事だ。人が来る恐れのある場所は選ばんだろう。となると見回りはあっても常駐兵はいない。____子供が隠れて遊ぶには丁度いいな」
「…………」


そのイザナの言葉は何か言いたげな含みがあるものだった。ゼンだってまだ13歳の子供なのだ、歳の近い友人くらい作りたいと思うのではないだろうか。寧ろユウからしたらやっと作ったのかと安堵する位である。


「ユウ」
「……はい、殿下」


機嫌が悪いのが伝わったのだろう、イザナは嗜める様にユウの名前を呼んだ。ユウと視線を合わせると軽く息を吐きながら笑う。


「仕事だ。弓矢番の子供を調べろ」
「……主の仰せのままに」


ぺこり、とイザナとミツヒデに頭を下げて部屋から1人出る。そのまま自室へと向かい、いくつかあるクローゼットを開けてその中から弓矢番の者が着る制服と弓の道具を取り出した。



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