「ユウ!!酒に付き合ってくれ!」 執務が終わってさぁ寝ようか、という所でミツヒデがユウへと詰め寄ってきた。ミツヒデから酒に誘われる事に驚きながらも了承の意を示す。 「……んで?どうしたのさ。珍しく」 「ゼンの背中をな、幼く思う事はもう無いだろうと考えたら……」 「あーはいはい。分かった分かった」 ガヤガヤと酒場らしい騒音の中、静かにミツヒデは言葉を漏らした。こくり、と手に持っていた酒を煽る。 ミツヒデはぺらぺらとゼンの話ばかりをする。それを半分聞き流しながらユウはミツヒデを見た。 ミツヒデがゼンの側近に成り立ての頃は、イザナの側近になりたがっていたのにこうも人は変わるものかと感心してしまう。 「……ね、ミツヒデ」 「ん〜?何だ、ユウ?」 「久しぶりに昔話でもしよっか」 ユウはへらり、と笑った。 ▽ ______6年前。 首都ウィスタルの東、セレグ騎士団基地。 綺麗な弧を描いてミツヒデは空を舞う。 「もらっ、……っ」 相手がミツヒデに斬りかかろうと剣を持っている手を振り上げるものの、ミツヒデは剣先を喉元へと向けてギリギリの位置で止めた。 「それまで!勝者、赤、ミツヒデ!!」 「おーい、3人抜きだぞ」 「ああ〜くっそ〜」 ミツヒデの勝利を告げる声がその場に響いた。ユウは感心しながら拍手を勝者へと送る。隣で柱に寄りかかっていたイザナは嬉しそうに笑う。 「ミツヒデ!また腕をあげたな」 「イザナ様!お出でになっていたのですか」 イザナを見つけたミツヒデは驚きながらも左手を胸元へと寄せ、敬礼をした。そしてイザナの隣に居るユウを見つけると少し眉を顰める。その分かりやすい反応にユウは失笑を浮かべた。 少し良いか、とイザナがミツヒデを呼ぶと嬉しそうに後をついて行く。 「お前にはいずれ城に上がれと以前いったよな、ミツヒデ」 「は、はい!」 緊張した面持ちでミツヒデははっきりとした返事を返した。 「少し早いが迎えに来た。俺の弟の側に仕える気はないか」 「……わ、私がですか!?」 「そうだ。誰かいい者がいないかと考えていたらお前が適任だろうと思って」 「それは、一時的な話で……?」 「いや?相性次第では末永く、だ」 ちらり、とユウを見たミツヒデは飽きているのを隠そうとしないユウの様子に少しの怒りを覚える。明らかに自分より年下の少女が自分の夢であるイザナの側にいるのに、何故自分がイザナの側では無く弟なのだろうか、と。 「ーーですが、私はまだ未熟者ですし……。私はいずれイザナ様のお側でお役に立ちたいと____!」 ほらやっぱり、とユウは内心で予想通りの展開に下ろしてある髪を撫でる。けれど高い地位に立ちたいとゼンを道具として考えている人よりは印象が良かった。ミツヒデがゼンを主としてくれたら良かったものの、この目の前の彼は意見を変える様子はないらしい。 「……お前がそういう男たから選んだんだが。そうたな、分かった。他を当たる事としよう」 「!?……〜っ、お、お待ちを、イザナ様!」 静かに腰を上げたイザナをどうにか引き止めようとミツヒデは声を荒げる。 「会ってみるか?弟に」 予想通り、と言いたげな表情でイザナはミツヒデへと問いかけた。その表情にユウは性格悪いな、とイザナの側近になってから何度目か分からない事を思ったのだ。 そして少しして王城ウィスタル。 イザナを先頭にしミツヒデを先導して王城を歩く事少し。ポケットに入っている懐中時計を取り出してユウは上を見上げる。 「殿下、そろそろです」 「そうか。……ミツヒデ、上をみていろ」 「はっ?上……」 不思議がりながらもミツヒデは言われた通りに上を見上げた。城を横断する様な影がミツヒデの目に映る。 「え!?今、何か……」 「……降りて来なさい」 呆れる事なく淡々とイザナは告げた。すると横断した影の正体、ゼンが上から降りて来てイザナの前で膝をつく。 「お帰りなさい……兄上」 「お前、何をやってる」 「いえ……別に何も…」 煮え切らない返事をしながらもゼンは顔を上げる事は無い。ユウは懐中時計を閉め、ポケットへと戻す。ざりっ、と靴が地面と擦れる音が鳴りゼンの肩が少し揺れた。 「ミツヒデ」 「はっ」 「弟のゼンだ。ゼン、東のセレグ騎士団から来たミツヒデ・ルーエンだ。今日からお前の側に置く」 「……ミツヒデ?」 下を向いていたゼンはゆっくりと顔をあげる。イザナの顔を確認しユウの顔を確認してミツヒデへと視線を向けた。 それは、 ミツヒデが17歳、ゼンが13歳の時だった。 |