ラジを招いた茶会が終わって早十数日。イザナが眼を通す書類を整理したり纏めたりといつも通りの仕事をユウはしていた。


「……ユウ」
「何でしょうか、殿下」
「気になるなら行ってこい」


イザナはちらちらと時計を見ていたユウが今日は使えないと悟ったのだろう、ユウが気になっているゼン主体の鳥の連絡手段がどうなるのか見届けてきて良いと言う。その言葉を聞いてユウはイザナの顔をまじまじと見る。次第に歓喜に瞳を輝かせ、ユウが行なっていた書類を机の上に置いた。


「では!!行ってきます!殿下!」
「行ってこい。行ってこい。戻ったらきちんとやる事」
「分かってますってば!」


殿下が仕事を行なっており、側近は考試を見に行く。普通であったら許されないであろう行為を当然の様に受け入れるユウの清々しさに一緒に仕事をしている政務官等は失笑を漏らす。失笑で済んでいるのはユウだからであろう。
必要な引き継ぎだけ済ませるとユウは扉を閉め、もう始まっているであろう考試へと脚を向かわせた。


「鳥使いはキハル殿、補佐として白雪殿、見張り台に監視役として兵士3名を同行させる。以上だ」
「ーーっ!赤い髪の、娘……」


ユウが考試場へと急ぐと考試内容は告げられた後であった。台の上にゼン、白雪、トグリル、ブレッカが居る。今から名乗り出るのは駄目だろうなとユウは肩を落とした。


「……ふっ、はっはっはっはっ!はははは!!成る程!なぜ急にこんな突拍子のない話が上がったかと思えば……。殿下のご友人を味方につけるとは考えたなぁ、トグリル」


舞台から大きな高笑いが響く。そして続く内容にユウは発言の主を睨み付ける。目の前の人物は自身の発言がどの様な意味を成しているのか理解しているのだろうか、と。きっと理解していないだろう。理解しているのならばあれ程自信を持って話す事は出来ないだろうから。


「殿下の友人!?」
「ふん、全く小賢しいことだ」
「それとこれとは!!」
「ブレッカ子爵。今はクラリネスにとって有益か否かの提案をしている。貴殿にも国の諸侯のお一人として見定めて貰いたい」


怒りで声を荒げようとした白雪を宥める様にゼンが言葉を遮った。にひると嫌な笑みを浮かべていたブレッカは口を閉じる。


「…………では殿下。私もココクの見張り台に同行させて頂きたい。疑うわけではありませんが、娘らに不正があっては殿下の面目がたちますまい」
「ゼン殿下!私も同行してよろしいでしょうか」


ブレッカに合わせてユウも真っ直ぐと手を挙げた。ユウが居る事に近くの兵やゼン自身が驚いていたが、ゼンが白雪へと顔を向けると1度頷いて大きく声を震わせる。


「ではブレッカ殿、白雪殿、ユウ殿、兵3名はココクに移動!4時にこの場から鳥を飛ばし開始とする!」


ゼンが告げるとユウは嫌悪感を隠さずに台の近くへと寄る。兵士達は珍しいユウの様子にこそこそと近くの者と話し始めた。


「……ブレッカ子爵」
「これはこれはユウ殿。どうかなさいまし」
「先程の発言は殿下への侮辱にあたります。殿下の広いお心遣いにより、この場では追求する様な事は致しませんが。…………次は無いと思え」


ユウが兵には聞こえない音量で伝えた言葉を聞いて"ひゅっ"とブレッカが喉を鳴らした。隣で事の次第を見ていたゼンが大きく咳払いをする。言い足りないがゼンが止めるのならば、とユウは口を止めてゼンを見上げた。
ゼンは呆れた顔でユウを見ている。


「ユウ、失礼だぞ」
「……申し訳ありませんでした」


渋々ブレッカに頭を下げたユウは台から遠ざかり、後ろで見守っていたミツヒデの側へと向かう。これ以上居たらまた何かを口走ってしまいそうだったからだ。


「ごめん、ミツヒデ。我慢出来なかった」
「いや、まぁ、だろうなとは思ってたよ。……白雪の事、頼んだぞ」
「ま、ゼンの為でもあるから頼まれますよ」


へらりとユウはミツヒデに笑いかけると自身の馬を引いてくる為に馬小屋へと急いだのだった。
そのユウの後ろ姿を見て、ミツヒデの隣に居た木々はミツヒデへと声をかける。


「ミツヒデも"良くやった"って呟いてたよね?」
「……それは言わないでくれ。本当は穏便に済ませるつもりだったんだから」



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