先程とはまた別の煩さで茶会は騒がしかった。
けれどそれも仕方ないだろう事が分かる。クラリネスを代表する王子2人とタンバルンの王子が揃っているのだから。


「ユウ殿」
「ハルカ侯爵、どうかなさいましたか?」


端からイザナ達3人を見ていたユウに、ハルカ侯爵は声を掛けた。ユウは顔をハルカ侯爵へと向ける。
目が合ったハルカ侯爵は真っ直ぐ仏頂面でユウを見ていた。ユウは何用かと首を傾げる。


「あ、いえ。大した用では無いのですが」
「……言いたい事があるなら言ってもらって良いですよ」
「ゼン殿下の新参の従者を御存知で?」


それだけでハルカ侯爵が何を言いたいのか何となくユウは察した。苦笑いをしながらユウは肯定を示す。


「ハルカ侯爵の言いたい事もわかりますが、大丈夫ですよ」
「……まぁ、ゼン殿下やユウ殿が言うのであるのならば……」


「兄上!」


ユウがハルカ侯爵へと返事を返そうと口を開くものの、それはゼンの大声によって音を発する事は無かった。周りの談笑している者達も何事かとゼンへと意識を向ける。
また何かイザナがゼンにちょっかいを掛けたのだろうか。けれどイザナでも流石に場というものを弁える筈だ。ひやり、と冷や汗がユウの背中を伝う様な気がした。


「ラジ殿?」


ゼンが少し語尾を強めにラジへと声を掛ける。それによって何とか返事を返そうとラジが背筋を伸ばした。


「あ、ああ。……せっかくだがイザナ殿。遠慮させてもらう。私は白雪殿に去られたわけでは断じてなく、違う地に生きてみたいと国を出た彼女を快く送り出したのだからな。まさか未練など!」


ユウはラジと会うのが今回の茶会が始めてであった。
ユウが幾ら聡いといってもラジの白々しさはミツヒデや木々にも分かったのだろう、白い目をラジへと向けていた。これ程までに取り繕うのが下手くそな王子も珍しいものだとユウは呆れ返る。先程、何故か不安に思ったのは気のせいだったのだろうか。


「何か会えない理由でも?」


どうしてイザナはラジと話を続けたいのだろうか。イザナであればラジが返事に困っている事などお見通しなのだろうに。
けれどユウはラジが言った一言でどうしてなのかを感じ取った。
ラジは白雪殿、と言ったのだ。
ユウはまだきちんと話した事は無いが、イザナが見定め様とした時に白雪の対応を見た。誠心誠意答えようとしたのは評価するが、自身の立ち位置を理解していなかった。
白雪がその後どうなったのかは知らない。


「白雪殿はゼン殿が婚約者にと考えている相手だと聞いたのでな」


信じられない言葉がラジの口から出た。
何とか「……ちょっと失礼」とゼンが言い、慌ててラジの首根っこを掴み人気のない方へ引っ張って行く。
隣のハルカ侯爵も目を大きく見開いている。ユウも同じ顔をしている事だろう。


「今の発言は……」
「気絶しそうだね」


はは、と乾いた笑いをイザナは浮かべた。







少ししてからだろうか。周りがまたざわりと騒ぎ始める。ラジを引っ張って行ったゼンが1人で茶会場へと戻って来たのだ。


「ゼン殿下、どういう事です!?」


ハルカ侯爵がゼンへと詰め寄る。ゼンはふっ、と息を吐くと口角を上げて笑った。


「ラジ殿と俺とで少し話が噛み合って無かったんだ。あの娘との婚約は考えてはいないし、申し込んでもいません」


はっきりとそう言った。
ユウはそれが真実だと分かる。前々からゼンの事を見て来たユウにとって、ゼンが少し寂しそうに、けれどもそれを悟らせない様に、笑っていたからだ。
あの顔は何かを耐え忍ぶ顔である。
視線を感じ顔を向けるとイザナがユウの方へと何かを言いたげに見ていた。けれどユウと目が合ったのを確認するとゼンへと視線を戻してしまう。


「……分かってるよ」


ぽつり、と小さく零す。
ユウは顔を下げて石ころが転がって無いかと探すが見当たらない。それにまた深い溜め息を吐く。
石ころでも蹴っていないとやってられなかったのだ。



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