「錆兎」


錆兎は声をかけられた方へと向く。そこには義勇が居た。


「義勇、どうかしたのか?」
「また負けたな」
「……前から散々言っているが、お前はもう少し考えている事を口にする様にしろ」


まぁ何となく言いたい事は分かる様になってしまったので、お礼を言っておく。今のは多分、甲になるのも柱になるのも錆兎の方が早いな、追い付くからなといった塩梅だろう。
錆兎は男である。男はただ芯を持って強くあれば良いのだが、偶に揺れる時もあった。勿論、顔にも態度にも男としての維持で出さないが、そんな時は切磋琢磨してくれている義勇の存在に助けられていたりもした。勿論、顔にも態度にもそれは出さなかったが。


「……彼女も柱になる様な奴だったのだろうか」


ぽつりと義勇は零す。
義勇が呟いた彼女も、錆兎が心で思い浮かべる彼女も同一人物だろう。自分達が鬼殺隊員になる為の最後の選別の時にアドバイスという名の説教をされた彼女だ。







錆兎は義勇を自分が守れる範囲でなるべく鬼を倒し、7日間生き残ったのだ。藤の花が咲いている所まで下りている時は自分の選択が正しかったのだろうかと、やはり自分が鬼を倒さなかった所為で助けられた人を殺してしまったのでは無いだろうかと、不安で一杯だったが、最初に集まった場所に着くとそこには最初同様に人が居た。
あっけに取られていた錆兎だったが、初日に錆兎が助けた男が安堵した顔で錆兎達を迎えた。


「良かった、君達も無事だったんだ!」


どうやら最初の時と比べて3人足りないと数えていた中で自分を助けてくれた錆兎が居ない事に不安を抱いていたらしい。丁度今、錆兎と義勇の2人が降りて来て、後居ないのは1人だと彼は言った。


「その1人はどんな奴なんだ?」
「……女の子だよ。丁度君達と同い年くらいの子。助けて貰った人が沢山居てさ。黒髪で花浅葱色の瞳をしてる子だよ」


彼はそれだけ言うと他に手当てをしなきゃいけない人が居るから、と行ってしまった。どうやら救急箱を持ってる人が他に居ないらしい。
何でまたそんな邪魔になる物を、と最初は思ったが、義勇の時も役に立ったので持っていた彼は義勇の恩人とも呼べるだろう。


「錆兎。彼女の事なんじゃ無いか?」
「……彼女?」
「初日の夜に会った女の子だ」
「…………あぁ、あいつか。確かに見当たらないな」


結局少ししても彼女は降りて来ず、小さな双子であろう女の子達が鬼殺隊の説明をしてなんだか違いの分からない鋼を選ばさせられた。
そうして解散となったその場でやっと錆兎達は悟る。彼女は死んでしまったのだと。
錆兎が助けた男はかなり狼狽えた様子でもう空に近い救急箱を抱えて藤の花の山を見上げている。


「……やっぱり、俺が救急箱を貰ったから、何か大きな怪我をして、そのまま…………」


ぐ、と泣きそうになっていたが、彼も男であった為に我慢したのだろう。静かに山に向かって一礼をすると山を下りて行った。1人山を下りるとまた1人、と山を皆が降りていく。


「最後まで世話になりっぱなしだった」


山を下りながら義勇は悔しそうに言葉を零す。
義勇を治療した救急箱はどうやら彼女の物だった様だし、きっと錆兎が鬼を倒すのを辞めないのも分かっていたのだろう。
錆兎のやろうとしていた事を彼女がやったらしい。彼女に助けられた人が悲しそうにしていたのを2人は沢山見た。


「……俺も同じ事をしていたら、同じ事になっていたんだろうか」
「…………分からない」


その後はただ無言で2人は山を下りる。
彼らを待つ育手の元へ、無事に生き残った事を伝える為に帰るのだった。







「……俺達の代も大分減ったな」


刀に手を当てながら何か考えるように錆兎は告げた。


「……そうだな」
「今の柱の人達全員に会うのは初めてだ」
「すぐ追い付く」
「水柱は1人で充分だろ」
「……なら俺がなる」
「いや、今から俺がなるんだけどな」


軽口を叩きながらも2人は歩みを進める。そして義勇は足を止めた。


「……行ってこい」
「あぁ。行ってくる」


錆兎は初めての柱合会議へと産屋敷邸へと向かう。錆兎の背中が見えなくなった後、義勇は自身の手をぎゅっと握りしめた。


「……これが、俺と錆兎の今の距離か」


ふぅ、と小さく息を吐く。
じゃり、と地面に足が擦れる音がして義勇は顔を上げた。今此処は柱合会議の場だ。柱はもう中に入っているだろうし、中に入らずここに居るとするなら継子だろうか、と顔を上げて音の人物を確認した。

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