錆兎、そして宇髄に感じた苛立ちをぶつける様にユウは柱としての仕事をこなしていた。


「天元様、ユウちゃん働きすぎじゃないですかぁ!?」
「神である俺様が何を言っても聞きやしねぇ」


わざとらしく溜め息を吐いた宇髄はがしがしと頭を掻く。きっとあの件だろうなぁ、と予想は付いていたが、ここまでとは想像が出来ていなかった。
昔に比べると大分丸くなってはいたが、根っこの部分はそのままだったのだ。遊郭の自身を売りに出した時は宇髄でさえも反発精神が出ていた為、その時は流すしかなかったが、好いた男ならと思い錆兎に余計な事を言ったのがまずかったかと1人反省していた。


「にしても錆兎の奴は何を言ったんだ……。めちゃくちゃ怒ってるじゃねぇか」


あいつ、寝て無いんじゃねぇか?と元音柱邸、現霞柱邸の日当たりの良い部屋で宇髄はゴロリと寝転んだ。



▽▽▽



柱として担当地区を回らなきゃいけないのだが、これが本当に大変である。
前は宇髄と2人で分けていたものを全部1人で回らなくてはいけなくなったのだ。いくらお互いフォローに入れる様に近い距離だったとしても裏道等全部把握しきれていなかった為、柱に就任してからは担当地区の地形を頭に叩き込みつつ、鬼を斬っては報告書を書き、藤の家に顔を出し挨拶し、鬼を斬っては報告書を書き、といった日々に追われていた。
だから、という訳では無いが、ユウは表情を変えずに鬼と闘っている隊士を屋根の上からじっと見つめていた。


「……ふむ」


1つ納得した様に頷くと刀に手を添え屋根を蹴り鬼に向かって一直線に向かう。
鬼と対峙していた隊士が驚きながらも刀を引いたのを確認して鬼の首へと刀を一直線に振ると、さらりと空を切る手応えに顔を顰めた。


「……なるほど。一発でいけないか。君、階級と名前は?」
「階級乙の獪岳です」
「乙か……。誰かと一緒に戦った経験は?」
「……そこまでありません」


藍白色の刀をゆらりと揺らし、ユウは首を左右へと軽く振る。コキリ、と音が鳴るが、目線だけはしっかり鬼を捉えており、鬼がこちらに少しでも近付いたら刀を振るつもりなのだろう。


「よし、なら私の事は無視していい。好きな様に切り掛かって。こっちがフォロー入るから。あぁそうそう、さっきみたいにいちいち刀も引かなくて良いよ。切っちゃったら切っちゃったで怒らないし」
「え!?でも、」
「はいはい、逆が出来ないんだから言う事聞きなさい」


ぽん、と肩を叩いて一歩前に進ませる。
ふに落ちていない様子がありありとしているが、大人しく獪岳は鬼へと向かう。さっきの一太刀でユウがある程度の力を持っていると理解したのだろう、鬼はこちらへ近付かず、近付いてくるのを待っている。


「雷の呼吸」


シィィィイイイ、と雷の呼吸特有の呼吸音が林に響く。それに合わせてユウもゆっくりと息を吸った。
雷の呼吸の派生、音の呼吸に合わせていたのだから、他の呼吸に比べれば合わせやすいだろう、と理解していても先程少しみていた位だ。
集中、と自分に言い聞かせて前を見つめる。


「霙の呼吸」


そう言いながら足元に力を入れた。



▽▽▽



化け物だ、と獪岳は思った。
この女が1人だったら、きっと一太刀目で首を斬れていただろう。自分が動揺し、動きを止めた事で鬼に避けられてしまったのだ。


「……うん、合格かな」


フォローにしか入らず、鬼の首を獪岳に斬らせた女は満足そうに頷く。確か音柱の継子だった筈である。


「……音柱様の継子様に首を斬らせて頂く情けを貰い、不甲斐ないばかりです」


思ってもいない言葉が口からすんなりと出る。心中は"何故、俺にわざわざ首を斬らせた?お前1人ならもっと早かっただろうが"と怒りが渦巻いているが、素知らぬ顔で顔を下げた。


「先に鬼と対峙してたから首を斬らせた訳じゃないよ」


カチャン、と女の刀が鞘に収まる音がした。


「最近、師匠が引退したから私が繰り上げで柱になったんだよね。でも仕事量が倍になってしんどくてさ」


なんなんだ、自慢か?と口角がひくついた。
俺だって、一の呼吸が出来れば、柱にだって、と胃の中がぐるぐると嫉妬で渦巻く。


「継子、探してたんだよね。獪岳、君、私の継子にならない?」
「……はぁ?」


今まで使っていた敬語が崩れる程、目の前の女の言葉が理解出来なかった。


「アンタ、何なんだよ」
「私、ユウ。君となら上手くやっていけそうな気がするんだよね。どうしたら継子になってくれる?」
「…………」


ユウと言った女の実力は自身の身を持って感じたし、継子となれば、ゆくゆく柱候補に上がるだろう。確かにいい話、ではあるが。


「なんで俺なんだ。他にも色々いるだろうが」
「だから言ったじゃん、上手くやっていけそうな気がするって。……色々鑑みた結果なんだけど、1つずつ挙げてあげようか?」


こくりと頷く。
どんな思惑で言っているのか分からないが、気まぐれで継子にされ、気まぐれで継子を下されたらどうなるか、"継子を下された出来損ない"の完成である。


「まず雷の呼吸って所がポイント高いよね。音の呼吸は雷の呼吸の派生だから色々アドバイスとかしやすそうだし、合わせるのもすぐに出来そう。あと君、器用でしょ。何でも器用にこなせるのも才能だよ」


あぁ、それと、と女は続ける。


「鬼も嫌いだけど、人も嫌いな屑っぷりも高評価」


獪岳が抱えているのも見抜いた上でユウはニヤリと笑ったのだ。

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