ここ最近は随分大人しくなったと思っていたが、どうやらなりを潜めていただけであった。


「……はっ」


短く息を吐くと、不死川はコキリと軽く首元を鳴らし、まるで初期の頃だなと淡々と現状を把握していた。
目の前で度々行われる甘ったらしいやり取りは非常に気に食わなかったが、気に食わない奴らが信じられないといった顔でユウが去った方向を見ているのは気分が良い。


「流石にお気に入りの水柱でも地雷を踏み抜きゃそうなるわな」


飽きた様に欠伸を1つ零すと不死川はユウと同じ様にその場を後にしたのだった。



▽▽▽



宇髄と初めて任務が終わり少し経った、まだ新人と呼べる頃。ユウは不死川と任務を共にした事があった。


「気味の悪ぃ女だな」
「よく言われます」


感情など無い人形の様な瞳をしてユウは不死川を見返す。光など無いはずなのに、少しその瞳が揺れた気がして不死川はユウから目を離し正面を向いた。
自分の発言1つ1つが彼女にナイフを突き立てている様な感覚になってしまったのだ。柄でも無ぇ、と思いつつも言いにくそうに口を開く。


「あー……ま、良いんじゃねぇの? 鬼殺隊なんて変な奴じゃねーと長続きしねぇだろ。普通の奴はさっさと死んでくからな」
「…………不死川さんは女なのに、とか言わないんですね」
「鬼の前に女も男も関係ねぇだろ。強ぇか強くねぇか、それだけだ」


どこも似ていないのにユウの姿が迷子になった時の弟に重なった。怖かった癖に目に涙を溜めるだけで泣かず、手間をかけさせた自分を責めてこちらの様子を伺う姿に。


「…………ありがとう、ございます」
「……突然礼を言うなんてやっぱり気味の悪ぃ女だな」


変な奴と言ったことに怒る事もせず、逆にお礼を言い出したユウに不死川は顔を歪めた。
やっぱり弟とは似ても似つかねぇ、とため息を吐く。
その後、少し無言で2人は歩き、ザクザクと草木を掻き分ける音が闇夜に響いていた。先程の鬼に対するユウの説教の様なものを思い出して不死川は開くつもりの無かった口を開く。


「テメェ、鬼に対してはいつもあんなんなのかよ」
「そういう訳じゃ無いんですけどね。ただ、芯をちゃんと持っていないブレブレの人を見ると偶にああなります。後は論理的では無い意見の押し付けとか」
「へぇ。無駄に苦労してんだな。無視が1番じゃねぇの?」


歩くスピードは変わらない。
きっと街に出たら直ぐにでもこの会話は終わるだろう。


「私がムカついたから文句を言うだけですよ。他人の為に我慢する必要性を感じません」
「確かになァ」
「不死川さんにも、譲れない事ってありますか?」
「……あぁ」
「人間ってそういうものなんですね。安心しました」


そこでまた会話が止まった。
人間ってそういうもの、ってどういう事だ、とか色々つっこみたい所はあったが、返事が欲しかった訳では無さそうなユウの様子に口を閉じる。
その後はまた無言のまま朝日が登り、お互いに新たな任務へと向かったのだった。

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