柱がそろった間でユウと義勇は膝を付いていた。


「謹んで拝命致します」


凛とした空気がそこに流れているのを感じる。
ユウはこの場には宇髄は居らず、本当に1人立ちしたんだなぁと実感した。

──霙柱、ユウ。
今迄は一歩引いた様であり、柱としては少し頼りなさもあったが、宇髄が前線を退いた事によりどこかふっきれた顔をしている。


「義勇とユウは継子として柱の仕事は間近で見ていたと思う。けれど実際に見るのと行うのでは違いがあるし、困ったら先輩の柱に頼るんだよ。皆も2人を手伝ってあげてね」
「御意」


ふわりと藤の花が揺れた。







気にはなっていたのだ。
そう、気には、なっていたのだ。
錆兎と1度も目が合わなかったのだから。


「私、何かしちゃってた?」


何かしてしまったかな、と思ってお館様が居なくなってから錆兎に声をかけると両腕をがしりと掴まれる。
ゆらりと錆兎の顔が上がり、表情を確認した途端「っひ」と小さく悲鳴が自分の口から零れ落ちた。


「……吉原」
「え? 後処理任せちゃった事?」
「……遊女」
「…………さ、錆兎。腕、ちょっと痛いかな〜なんて」


あはは、と笑顔を浮かべて錆兎の腕から逃れようと体を動かすが、離す気はさらさらなさそうである。
何事かとしのぶや蜜柑達がユウと錆兎のやり取りを見てはいるが、止めようとはしていない。


「…………たのか?」
「え?」
「だからっ、色を売ったのか、と聞いてるんだ!」


ユウは体を捻って錆兎を投げ飛ばす。
しかし悲しきかな、錆兎も柱である。空中でくるりと体勢を整え、砂埃を少し立たせたのみで安定した着地をしていた。


「…………なんでそういう発想に至ったのかは一応聞いてあげるよ」
「宇髄さんが"アイツ、潜入する時に自分の処女を売れば良い、つって自分を売り込んでたぜ? 信じられねぇよな"と」


"但し、終わったら覚えておけよ"そう念押しの様に言っていた宇髄の顔を思い出す。
ぐ、と顔を歪めたユウに、錆兎は宇髄と同じ様に怒り出すのだろう。炭治郎の様な匂いが分かる訳では無かったが、彼からはそんな雰囲気が感じ取れる。


「俺達は男だが、お前は女なんだから、」
「君には口を出す権利は無いよね」


だが、何故咎められなければならないのかと、ユウは冷えた声音でそう告げた。


「君はよく"男だから"って使うけど、それどういうつもりで言ってる?」
「……は?」
「それ、私達、鬼殺隊の女を侮辱する言葉って理解してる?」


自身でも驚く位にどんどんと彼に対する嫌悪感が溢れてくる。


「女だから大人しく守られていろって? 男の背中に隠れてろって? 君、私が柱になった実力を疑う訳?」
「そ、そういう訳では、」
「私は自分で処理出来る自信があったし、最悪の場合もちゃんと考えて行動に移してる。……君自身の鼓舞の為に使うなら別に何も言わないけど、それを私にまで強制するの辞めてくれる? 女だろうが、男を庇うし、傷だって作る。必要なら処女だって無くす」


ユウの勢いに錆兎は口を挟めず、パクパクと動かすだけだった。


「鬼殺隊に入ったのは、強くて格好いい男の人に女の子扱いされる為じゃない」


意見の違いなんて多種多様な人間なら当然だが、今だけは自分が冷静に錆兎と話せる自信は無かった。怒りの様な諦めの様なこの感覚の状態で余計な言葉を言う前に、とユウは踵を返す。


「しばらく顔も見たくない」


言うつもりも無かった言葉を背中越しにぽろりと零してしまったが、まぁこの位ならいいかとユウはその場から離れるのだった。

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