ユウが彼らに会ったのは、鬼殺隊最終選別の場である藤の花が常に咲き続けている山だった。
顔の綺麗な2人組だなぁ、と何となく目に留まったのだ。
直ぐに宍色の髪の子が丁寧に彫られたお面を付けてしまったので、勿体無いなと思って覚えていたのだと思う。


「頼む!」


そう言い残しさっと踵を返した彼は、まるで鏡を見ている様だった。


「君が離れるなら私は彼を殺す」


宍色の髪をした彼は進もうとしていた足をぴたり、と止める。そしてゆっくりとユウともう1人の黒髪の彼の方へと顔を向けた。もちろん本気だよ、と本来鬼を斬るべき刀を怪我をしている黒髪の彼の首へと添え、にっこりと笑った。


「お荷物を背負ったままこの7日間を生き残れる保証は私にない。今後、彼が邪魔で私が殺される場面になったら私は躊躇なく彼を見殺しにするよ」
「俺が鬼を全部倒す。だからお前は義勇を、」
「君が鬼を全滅させるまでに私の所に鬼が来ない確証は?鬼の数はどの位?そもそも君が鬼に殺されたらそれこそお荷物だけ押し付けられた事になる。私に徳は無い事を聞く理由はない」


ぐっ、と彼は顔を顰めた。ユウの言いたい事が伝わったのだろう。


「……分かった。誰か他の奴に頼む。すまなかった」


他の奴に頼めばいい、そんな軽い事が言いたい訳ではなかった。


「他に信頼のおける知り合いが居るようには見えないけど?」
「さっき助けた奴がいる。そこまで戻って義勇を、」
「君は馬鹿だねぇ。大馬鹿者だよ」


あっはっはっ、と冷えた笑いがユウの口から出た。


「君が助けたって事は君より弱いって事でしょ?そんな奴が他人を守って鬼と闘えるとでも?……皆が皆、君の様に他人の為に命を懸けて鬼を殺す事は出来ない。例え、今は守れると言ったって実際そうなったら人は簡単に意見を変えれる生き物だ」


それに、とユウは続け丸めた手を彼へと見やすく向ける。


「1つ、君は鬼を全滅させると言った。けれどそれは不可能だ。君は自分の力を過信し過ぎているから。過信は慢心だ。君はいずれ痛い目を見るだろうね」
「2つ、君に助けられなければ鬼を殺せない程度の力量の者は振るい落とされる者だ。そんな奴らが使えない彼を抱えて生き残れるとでも?」
「3つ、最終選別は7日間生き残る事だ。全滅させなければいけない訳ではない。まぁ、君の死人を出したくない気持ちは鬼殺隊には向いているんだろうけどね」


1つ1つ丁寧に指を立てて彼に説明していく。彼は何も言わずにただじっとユウの話を聞いていた。


「つまり色々な条件を加味すると、君が彼を守る事が彼が生き残れる1番最良の手なわけだ。まぁ彼を渡した相手の所に鬼が来ない可能性が有るかもしれないが、それは博打みたいなもんだろうね」
「……錆兎」


ぽつり、と首に刀を当てられながらも、義勇と呼ばれた黒髪の彼は言葉を発した。どういった意図だったのかは分からないが、まぁユウには関係は無いだろう。


「君は選ばなければならない。彼を確実に守る為に他を見捨てるか、全部を守る為に彼を危ない目に合わせるか。それは君の心次第だけど。……私が出来るアドバイスはこんなもんだよ。後は好きにしなね」


話は終わったとばかりにユウは刀を仕舞うと、2人に背中を向け、木の間をさっさと進み始めた。その場に残された錆兎と呼ばれた宍色の髪の彼はお面に隠された目を大きく見開いて驚く。


「……今のがアドバイスなのか?」


寧ろ、説教の様だったと錆兎は零した。

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