何が"慣らした方が良いよ"だ。


「……っ!」


何かを感じ取ったのかユウは自分の口を両手で塞いでいた。そのユウに錆兎は何度目かの溜め息を吐く。
好きな女に"媚薬の効果がまだ残っている"と聞いて何も思わない男が居るだろうか。つまりそれは、遠回しに"ユウの体は男を求めている"という事をさらりと言って退けたのと同等である。

今、ユウに触れたら彼女は自分を求めてくれる。
そう分かってはいるが、彼女はそれで家族を無くしていると知っているからこそ、同じ事は出来ない、したくなかった。

そんな複雑な中でユウはまたも爆弾を落とす。
お前も媚薬を使え、と勧められた錆兎は自分の顔が強張るのを自覚している。


「……俺に媚薬、使えって?」
「えっ!?あーいやー、その、まぁ、間違いが起きない様に、慣れておいた方が良いんじゃない?って思っただけで、別に、そのぉ〜錆兎が、その、心許ないっていう訳では無くて」
「はっきり勃たないって思って勧めた訳じゃないって言えよ……。いや、そもそも何が言いたいのかは理解はしてる」


ゴニョゴニョと口元を動かして気まずそうにユウは言葉を選んでいた。自分から汚い話を始めた癖にどういう心境の変化なのだろうか、と錆兎はユウの様子を伺う。


「……そうだな、お前の前でなら別に使っても構わない」
「…………はい?」
「そうだ、それが良い。勧めた本人が始末までちゃんと面倒見るべきだと思うんだが」
「……はぁ!?」


ユウが錆兎を凝視してくる。本心で言っているのか探っているのだろう。かなり必死な様子に錆兎は笑った。


「笑っ!?あーそうだよね、男って普通に抱けるもんね!はいはい、分かりました!!そんな遠回しに脅さなくても、もう言わないし!」
「次、俺の前で同じ事になったら"俺に抱かれたい"って事だと覚えておくな」
「絶、対、言、わ、な、い!」


全力で否定するユウに「可愛いな」と零すと、目の前の彼女は顔を真っ赤に染めた。自分を好意的に見てくれているのは前に分かった為に、今回はある程度の余裕が出来ているのか、ユウの様子をまじまじと眺める。
そうか、こいつこんな照れ方をするんだな、と口角が上がった。


「……で?」
「……何?」
「"こういう場合の処理"は勿論知っているし、ユウなら喜んで面倒見るが?」
「…………〜っ要らない!」


揶揄う口調だと理解していても、上手く返せる言葉が思いつかなったのだろう、子供の様に叫んで吐き捨てると、ユウは静かになり顔を下に向ける。さらり、と最初にあった時より長くなった髪が目に入った。







もしかして勘違いをさせてしまったのかと、不機嫌になった錆兎を慌ててフォローすると、逆に楽しそうに下の話をし始めた。
君さっきまで恥ずかしがってた癖に、と文句を言う前に錆兎の目を見てしまったのだ。
とろり、と甘さを少し含んだ柔らかい目。
全身がむず痒くなる様な、そんな目で見ないでくれと叫び出しそうになった。

──自分は彼にそんな目を向けられて良い様な人間じゃない。

隠の人が遊郭という事で持っていた媚薬の打ち消し薬を打ってもらいながら、ユウは隣にずっと居たままの錆兎を盗み見る。
ユウが黙ってから、錆兎は何も言わなかったが隠の人達が追い付くと立ち上がり、女性の隠にユウの症状を伝えて処理する様に命令していた。
そしてすぐに全体の指揮を取り始めたのだ。


「おーいユウ!」


間延びした宇髄の声に呼ばれてユウはそちらへ視線を向ける。嫁3人に支えられ宇髄はこちらへ向かっていた。


「しっ!?師匠!大人しくして下さいって言ったじゃないですか!」
「してたっつーの。向こうは伊黒が指揮し始めたから可愛い可愛い継子を迎えに来てやったんだろー?」
「なっ、か、可愛いとか言わなくて良いですから!」
「あぁ?何急に照れてんだよ」


不思議そうに首を傾げた宇髄だったが、ユウの側に居た錆兎を見てにやりと笑った。


「悪りぃな、錆兎。邪魔しちまって」
「いえ。宇髄さんもご無事で何よりです」
「俺はもう引退すっし、先輩柱としてユウの事頼んだぜ」
「任されました」


錆兎は爽やかに頷く。


「あ?ユウ、注射なんかしてどうしたんだよ」
「媚薬の打ち消しの為です」
「……は?」


宇髄の声のトーンが下がる。
さっきの錆兎と同じ様で既視感があり、ユウは自分の顔が引きつるのを感じた。


「……い、言ったじゃないですか!鬼の毒って!禰豆子ちゃんの火で無くならなかったので、鬼の毒に粗悪品の媚薬も混ぜられてたみたいです」
「しかも粗悪品かよ」
「ほ、ほら、行きますよ!治療しないと!」
「仕方ねーなぁ。今回は流されてやるけど、後で覚えとけよ」


注射も終わったので慌てて立ち上がろうとした時に、錆兎がユウの横にしゃがみ込み、脇と足の裏に手を回し軽々と持ち上げる。


「俺が"また"これで運んでやろうか?」
「……もう2度とからかわないので許して下さい」
「はははは、分かった、分かった」


錆兎はユウの右足に負荷が掛からない様にゆっくり地面に立たせてくれた。たった数分の出来事だが疲れがどっと出て、大人しく隠の肩を借りる。
宇髄が何か言いたそうにユウを見ているが、意地でも目を合わせないぞ、と思っていると錆兎がユウの名を呼んだ。


「言い忘れてたが、ユウはそういう服も似合うな」
「…………ドーモ」


そっけないユウの態度に錆兎は大笑いをしたのだった。

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