「ユウちゃ〜ん!!こっちにもお酒頂戴〜!」


酒の注ぎ口をタオルで抑えるとユウは立ち上がり呼ばれた方へと急ぐ。


「ここ入ってまだ数日でしょ?本当に女将さんはいい売り方してるよねぇ。期待の新人!良いねぇ!あっはっは!!」
「女将さんには頭が上がらないですよ。……お酒も良いですけど、剣舞はどうです?」


にっこりと笑って、酒を離す。


「じゃあお願いしようかなぁ〜!んはは、ユウちゃんはおねだり上手だねぇ〜!」
「いえいえそんな。でもあの値段でって考えるとお得でしょう?」
「確かに!!他じゃ絶対見れないキレの良さだもんね!!俺、他の人にもオススメしちゃった〜!」
「わ!ありがとうございます!じゃあ今日はちょっとおまけしちゃいますね」


笑い声をバックにユウは日輪刀では無い、普通の刀を出す。刃はユウがきちんと手入れしておりキラリと光った。
ユウが来る前からこの店で働いている娘達が曲の準備をし始める。彼女達にも色々思う事はあるのだろうが、今の所変な事をされた事はない。
音と共にユウは大きく息を吸った。







今日も異常無し、と宇髄へと定期連絡が済んだ後、廊下から誰かが歩いてくる音が鳴る。
まだ全員の足音を聞き分けられないが、今までに聞いた事の無い音であった。尻尾を向こうから出してくれるのか?と隠している日輪刀を側に寄せて呼吸が乱れない様に、普通の人の呼吸感の為に全集中の呼吸を止めて息をする。


「あんたが最近珍しい売り方してる子?」


後ろを振り返るとそこには見慣れない遊女が綺麗な笑顔を浮かべて立っていた。


「……え、あの」
「あぁ、ごめんね。私荻本屋のしがない遊女よ。吉原だとたった数日でも噂は回る。あの女将がこんな売り方なんて出来ない、って事はあんたが何かしてるんでしょ?」
「……何か御用ですか?」


音も呼吸も鬼では無く普通の人な為、ユウは刀を持たずに遊女の方へ寄る。
宇髄に気を張っておけと言われたのにも関わらず、つい気が抜けてしまったのが駄目だったのだろう。
すん、と甘い匂いがしたかと思ったら体から力が抜け、最後に見たのは三日月に歪む女の口だった。







自分の名前を呼ばれた気がしてユウはゆっくりと目を開ける。
が、視界は真っ白で目が慣れていない。


「し、師匠」


声も出すのが大変だ。体が全身刺すように痛くて、背中を支えている宇髄の手が触れている部位もとても熱い。


「ユウ、しっかりしろ。立てるか?」
「あの、眩しくて、ちょっと」
「何寝ぼけた事言ってんだ?」


その宇髄の返しでユウは自分の状態をはっきりと理解した。

──目が、見えないのだ。
多分、荻本屋の遊女に嗅がされた"何か"の影響だろう。宇髄達に毒耐性をある程度付けられたユウは1つの答えを導き出す。
鬼の血鬼術。
鬼に毒を調合出来る奴がいる。
しのぶが毒を自作調合しているし、鬼にもそういった存在がいても不思議では無かった。


「私、どうなってたんですか?」
「鬼の血鬼術、帯の中に囚われていた。まだ鬼本体は倒してねぇ。行くぞ」
「行けません」


ユウが言い切った事に宇髄はぴくりと反応する。どんな顔をしているのか、ユウには見えなかった。


「目が見えません。体も全身に痛みがあります。多分、別の鬼の血鬼術かと。匂いで意識が飛びました」
「……分かった。まきを、須磨、ユウを連れて、」
「要りません。自分でなんとか出来ます。須磨さんとまきをさんは他の人の避難に回して下さい」


宇髄は何かを言おうと息を吸った。
が、言葉を発する前にユウはまた被せる。


「まだ、鬼が残っています。鬼殺隊として、やるべき事をやって下さい。"柱"なんですから」
「……野郎共、追うぞ!ついて来い!さっさとしろ!」


宇髄はユウを丁寧に地面に下ろすと、そう叫んで力強く踏みしめて上へ去っていった。
それを見送ると須磨とまきをがこちらの様子を探る様に一瞬視線を向けたが、私が頷くと上へと登っていく。
ここは地下なのだろうか、と自分の周りがどうなっているのか落ち着いて探る。
自分の体感では少し、けれど実際はもうちょっと経った時、ユウは近くに居る宇髄の鼠へと声をかけた。


「ネズくん達いる?私の刀、持ってこれる?」


チュー、と返事が返ってきた。
その後に小さい足音が遠ざかって行くので、ユウの刀を取りに行ってくれたのだろう。
完全に1人になり、小さく息を吐いて体を起こす。
そして体を少しずつ動かし岩に手をかけて登り始めた。

あれだけ気を付けろと言われたのに、と自分の愚かさに唇を噛んでしまい血が流れた。
どんどん体は熱くなる。痛みは増す。視界は変わらない。


「大事な時に、何も、出来なくて、何が継子だっ……!」


悔しくて悔しくて、ギリッと歯を食いしばった。
遠くから、戦闘の音がしている。
後輩3人が命懸けで戦っているのだ。
ユウは見えない状態でなんとか登りきり息を吐く。体の不調の感覚にも慣れた。寧ろ、視界が無く、体がいつも通りでは無いのにどこか調子が良いような気もする。
鼠に持ってきて貰った刀を腰に差し、その場で軽くジャンプをして体の感覚を叩き込む。


「目隠しで師匠と打ち合った事も、あるんだから、"問題ない、行ける"」


顔を上げ、正面を見据える。
何となく、建物がどうあるのかも分かるような気がしていた。







ユウは思いっきり地面を蹴った。
どこからか驚いた声が聞こえた様な気もするがそんな事より、と腰に刺してある予備の刀を抜き、炭治郎の方へ勢いをつけて投げる。
そしてすぐに体を捻りながら日輪刀を抜き、善逸と伊之助が体をボロボロにして首を斬ろうとしている鬼の首へ刀を添え、一気になぎ払う。
手応えがあり、首を切れたと感じた。


「……よしっ」


そう一瞬安堵した後、見えない視界の中で不安定な屋根の上に着地しようとしたのがいけなかったのだろう。無様に転げ落ちる事は無かったが、右足首を痛める着地の仕方をしてしまった。
取り敢えず、善逸と伊之助が自身よりぼろぼろなので変な体制で落ちない様に回収し始める。
宇髄の方はどうなのか、と確認する前に、近くから宇髄の嫁3人の歓喜の声も聞こえた。


「逃げろ──────ッ!!」


だが、嫁3人の歓喜を掻き消す程の切羽詰まった声にユウは反射的に善逸と伊之助を庇う様、覆いかぶさる。
ギュルリ、と嫌な音が聞こえた後に建物が崩れる音、そして小さく肉が切れる様な音が聞こえた。
自分は最後の最後にしか間に合わなかったのだから、と抱えている2人がこれ以上怪我をしない様より強く抱き締め直した。

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