炭治郎達を拾う前の事、胡蝶屋敷に向かっている時に宇髄は正面を向いたまま淡々と呟く。


「須磨、まきを、雛鶴が第四候補で挙げていた店、そっちにお前は行ってもらう」
「はい」
「ときと屋、荻本屋、京極屋、こっちは嫁を見つけられれば任務完了だが、そっちは全くの1からの調査だ。もしかしたらそっちがアタリかもしれねぇ。気を張ってけよ」


その時の会話を思い出し、ユウは目の前の女将ににっこりと人受けするであろう笑顔を見せる。


「うちで働きたいと?」
「はい!拾って頂いた旦那様のお役に立てるならと自分から志願させて頂きました。自分で言うのもなんですが、大抵の事は出来ますし、顔はまぁまぁだと思います!」
「……でもねぇ、今から売り出すってなると何かしらのプラスがないと……」


わざとらしく女将は顎を撫でた。
宇髄をチラリと見ても特に表情は変わらない。そういった態度にこちら側は付け上がり易いと分かっているのだろう。それか宇髄の顔面に興味が無いか。


「……実は、どこに行くかで旦那様と吉原を回った事があるのですが、そこで何度も声をかけられたので今日はこうした格好をしてきました。髪はカツラを被っているので実際は腰辺りかと」


興味も無さげにそう、と頷いていた。
他から引くて数多だと匂わせてもこの態度か、とユウはほんの少し目を細める。まさか実際の女である自分が炭治郎達よりも苦戦するとは思っていなかった。


「こいつを引き取る気はねぇってか?奥さん」
「いえ、引き取っても良いんですよ?ただ、ねぇ、若ければ若い程技術を仕込み易いですし、ここまで大きくなってると、となると……手間がかかりますでしょう?」
「…………金か」


宇髄が舌打ちをして着物に手を突っ込もうとしたのをユウは手を前に出して止める。


「"旦那、私は旦那の家の為に売られるんです。私なんかの為にお金なんか使っては駄目ですよ"」


ユウの言葉に宇髄は大人しく着物から手を離した。
最初の設定から逸れてしまうと怪しまれて深くまで潜れない。ただでさえ若く見える顔のいい男と若い女の組み合わせで怪しまれているのだから。

宇髄には一言も言っていないし、絶対に怒られるであろう売り出し方も一応は準備していたが、これを使う羽目になるとはとユウは小さく息を吐く。


「ではこれで売り込みは最後にさせて頂きますね。駄目なら他の所へ行きますので」
「まぁ一応聞いてあげるけど、諦めたほ」
「処女です」


食い気味に言ったユウに女将は口を閉じる。多分もう宇髄に食われていると思っていたのだろう。女将の目は少し食いついていた。
だが隣の旦那はユウの隣に居る宇髄の表情を見て、顔を真っ青にしている。


「琴、三味線、舞などは当然出来ますし、私と同じ位の食べ頃の女はもう新人とは言えないでしょう?なのでまず期待の新人として希少性を高め、お客様に顔を覚えて頂ければと思います。その後、期待の新人の処女を売ればかなりの額が積まれると思っております」
「成る程ね。自分の売り方も考えてきた、と。……いいわ、面倒みてあげる」
「さて、いくら出せます?」


上機嫌になっていた女将は口をひくひくと歪めた。
最初の時点で決めておけばユウの付加価値を計算せずに安価で手に入れられたのにと表情がありありと告げている。


「……50」
「足りませんね。言ったでしょう?"何度も声をかけられた"って。実はどのくらいの価値があるか値踏みして貰ってたんです。倍は欲しいですね」
「嘘おっしゃい。いくら条件が良くてもその年で100なんか出す所は無いわ。値段交渉は上手くないのねぇ」


ほほほ、と乾いた笑いを浮かべているが女将の目はまだ諦めていなかった。ユウは宇髄の方からやけに視線を感じているが決してそちらを見ない。
絶対に怒っているからだ。


「そうですね。私の顔だけ見た遣手の女将さんでも、50いけば良い方だろうとおっしゃって頂けました」
「なら文句は無いでしょう?ほらあんた、お金の準備を」
「"花魁"がいる所なら、ですけどね」


ぴたり、とまた女将の動きが止まった。


「花魁がいる所ならまだしも、ここは居ないですよね?花魁候補が欲しいですよね?ちまちまとした値段交渉は嫌いなんです。100頂けるのであればここを綺麗に建て替えられる位は稼いであげますよ」
「……私の性格までも調査済みって事ね」
「勿論私もそこまで鬼じゃないので、私を着飾る分を引いて旦那様に100です。他ならもっと値上げしますね。これ以上はひけません」
「分かったわ。但し私の言う事を守る事」
「問題ありません。ですが時と場合によっては反対意見もさせて頂きますし、その場合お互いが納得する所を探す、如何でしょう」
「100、用意してきて頂戴」


女将がぱんぱん、と手を叩くと旦那は慌てて動き出す。別れの挨拶をする時間を取ってくれたのだろう、女将は準備が出来るまでそこで待ってなさい、と告げると店の中に入っていった。


「……おい」


ずっと黙っていた宇髄が、低い唸り声の様にユウを呼んだ。


「大丈夫ですよ、師匠。多分1ヶ月は余裕がある筈です。その間にさくっと解決して足抜けしますから」
「そういう問題じゃねぇ」
「ここがハズレだったらお金は返すつもりなので使わないで下さいよ」
「……こっちを見ろ、ユウ」
「嫌です。怒る気でしょう。いくら継子でも自分で責任くらい取れます。私は別に大事にしていませんし」
「お前は忍じゃねぇだろうが」
「でも鬼殺隊です。今までやり方にケチつけた事ないのに煩いですね」


視線の先で女将がこちらに向かってきている。


「そりゃ……お前は女だろ」
「鬼の前に男も女も関係ありません。次似たような事言ったら嫁さん達に師匠が浮気してたって言いますから」
「……分かったよ。但し終わったら覚えとけよ」


念押しの様な宇髄にユウは何も言わずに笑うだけだった。

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