「いやぁこりゃまた、不細工な子達だね……」
「ちょっとうちでは……。先日も新しい子入ったばかりだし悪いけど……」


それは当然の反応であった。


「まぁ1人くらいなら良いけど」


だがそれに続く様に、奥さんが宇髄を見ながらそう言ったのだ。頬が少し染まっており、隣の旦那は何か言いたそうに自分の嫁を見つめる。


「じゃあ1人頼むわ。悪りぃな、奥さん」
「ちょ、師匠!!旦那さんのお返事がまだですよ!気が早いです!!」


宇髄はユウが慌てて自分を止めると、なに邪魔してんだ、と言いたげに一瞬顔を歪めたが直ぐにまた爽やかな表情に戻す。
ん?と不思議そうに旦那はユウを見つめる。
その様子に引っ掛かった、とユウは口角を上げた。


「いやはや、実は自分、女なんですよね。師匠の所でお世話になっておりまして。でも女の子を売るのに、弟子が女の格好していたら自分までもが売り物だと勘違いされるからって、こんな格好をさせられているんです。……うちの師匠、心配症でしょう?」
「へ、へぇ」
「いくら売り物だと言っても、うちで一瞬は面倒を見てた子なんです。だから拾って貰うならちゃんとした所が良いって!師匠ったらこの子達の事までちゃんと考えてるんですよ。それで自分が旦那の所に連れてきた訳です」
「そ、そうか……」
「吉原にはそれはそれは上から下までキリがないじゃないですか。でもここはそんな暗い噂は聞かないわけですよ。それはきっとまとめ上げている代表、つまり旦那がちゃんとした、軸のある格好いい男性だから成り立っていると思ったわけなんですよね!」
「あ、ありがとう」
「いえいえ、当然の事を言っている訳ですから!なので是非、1人だけでいいので引き取って頂けないでしょうか?是非、大黒柱である旦那にも賛成して頂きたいんですよね!奥さんは賛成して頂けていますし」


ぺらぺらと回る口を一旦止めてユウはふんわりと旦那の手を取る。


「オススメはこの子なんです。やっぱり優しいと噂の旦那でも……駄目でしょうか……?」


旦那もユウの勢いに負けたのか、こくりと頷いた。







「で?何でお前は口を挟んだんだよ」


炭治郎が無事に就職が決定した後、宇髄は腕を組み、からん、ころん、と下駄を鳴らしながら歩いていた。


「師匠、嫁さん達からの手紙ちゃんと読みました?」
「あぁ?読んでないとでも言いてぇのか?」
「旦那は嫁さんに頭が上がらない、みたいな事が書いてあったでしょ?師匠みたいに自己肯定が凄い人は分からないとは思いますけど、あぁいうタイプは勢いで押して褒めればちょろいんですよ」


ユウは淡々と前を見ながらそう説明する。


「師匠の顔面で奥さんは軽くいけるかもしれませんけど、もし炭治郎が男とバレたらどうなるか分かりません。でも逆にあのタイプの旦那は、認めてあげるだけで勝手にこっちに恩を感じてくれて、奥さんが炭治郎を捨てようとしても止めてくれますよ、きっと。炭治郎はこの中で1番人受けしやすいタイプなので、より効果が出やすいですね」
「……お前よく考えてんな」
「対人に関してはかなり研究しましたから」


いつの間に準備していたのか、袖口に手を突っ込み、引き抜いたユウの手には飴が握られている。
それにしても、と宇髄は呆れた様に溜め息を吐いた。


「ほんとにダメだな、お前らは。二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」
「俺、貴方とは口利かないんで」
「女装させたからキレてんのか?何でもいう事聞くって言ってただろうが」

善逸の様子がよくわからないといった表情をしていた宇髄だが、進行方向の先がざわざわと騒ぎ出した為に口を閉じる。


「あー、ありゃ"花魁道中"だな」


遠くを見るようにしていたが、ゆっくりと手を下ろして宇髄はそう言った。
シャリン、シャリンと綺麗な鈴の音が響く。


「ときと屋の"鯉夏花魁"だ。1番位の高い遊女が客を迎えに行ってんだよ。それにしても派手だぜ。いくらかかってんだ」
「嫁!?もしや嫁ですか!?あの美女が嫁なの!?あんまりだよ!!3人もいるの皆あんな美人なんすか!!」
「嫁じゃねぇよ!!こういう番付に名前が載るから分かるんだよ!!」


2人の言い合いというか、宇髄の一方的ないじめが起きている隣で伊之助を凄い目で見つめている女性が居た。
いつの間に!?とユウは声も出せずに驚いており、見られている等の本人、伊之助は耳の中に指を突っ込んで耳を掻いている。


「ちょいと旦那。この子うちで引き取らせてもらうよ。いいかい?"荻本屋"の遣手、アタシの目に狂いはないのさ」
「荻本屋さん!そりゃありがたい!達者でなー!猪子ー!」


さくさくっと伊之助も就職先が決まり、女将に連れられていく。
それを見てユウはしょんぼりと肩を落とした。


「どうしたんだよ?」
「荻本屋さんも情報ばっちりで売り込む気満々だったので、ちょっと残念なだけです……」


そ、そうか、と取り敢えず頷いておこうといった様子の宇髄にユウは溜め息を吐く。
宇髄が対人に対して脅すか屈服させるしか手段がない人だから、こうしてユウが対応出来る様にしていたのに、まるで試験勉強をばっちりして試験が無くなった時の様ななんとも言えない気持ちになったのだ。

prev / Back / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -