息を少し乱しながら、3人は藤の家で出されたお茶とお茶菓子を元気に頬張っていた。


「……やけに早く追いついたなと思っていたが、ユウ、これから任務なのは分かっているよな?」
「分かってますよ?3人ならこれくらい直ぐに回復するので、やらせてみました」
「……まぁいいかァ。お前ら遊郭に潜入したらまず俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」


2人のやりとりの後ろで3人は出された茶と茶菓子をもぐもぐと食べている。


「とんでもねぇ話だ!!」


そんな中、善逸は手を止めて宇髄へと不快な思いを隠しもせず顔を歪めた。


「ふざけないで頂きたい!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!!」
「はぁ!?何勘違いしてやがる」
「いいや、言わせて貰おう!アンタみたいに奇妙奇天烈な奴はモテないでしょうとも!だがしかし!鬼殺隊員である俺たちをアンタ嫁が欲しいからって!」


伊之助は話に興味が無さそうにほっぺたを膨らませているので自分の分もそっと彼の前に差し出すと、ピタリと動きを止めてこちらをじっと見つめる。
食べていいよ、と言うと鼻を軽く鳴らして伊之助はユウの茶菓子も手に取った。

逆に炭治郎は善逸を止めようと羽織の裾を引っ張っているが、善逸は気にしていない様だ。


「馬鹿かテメェ!俺の嫁が遊郭に潜入して鬼の情報収集に励んでたんだよ!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだっての」
「……そういう妄想をしてらっしゃるんでしょう?」
「クソガキが!!これが鴉経由で届いた手紙だ!」


宇髄は手近にあった手紙の束を善逸の顔面へと思いっきり当てる。善逸は悲鳴を上げているが、炭治郎は気にせずに手紙を拾って読み始めた。
きっと彼らは過干渉しない所が長続きしている秘訣なのかなぁ、なんて思いつつも手紙を拾って丁寧に整えていく。
自分でやったことではあるが、後でぐしゃぐしゃになった手紙を見て怒り散らしそうなので綺麗にしておく必要があるのだ。


「随分多いですね。かなり長い期間潜入されているんですか?」
「3人いるからな、嫁」
「3人!?嫁……さ、3!?テメッ、テメェ!!なんで嫁3人もいんだよ、ざっけんなよ!!それにユウさんっていう継子!?はぁ!?」


さらりと言い切った宇髄に善逸が悲鳴の様な嘆きを叫ぶ。
するとドゴ、と鈍い音がしたと思ったら善逸が畳へと倒れこんだ。


「何か文句あるか?」


どうやら今の宇髄は短気である様だった。


「……大丈夫?善逸」
「…………」


きっと彼は心の痛みもあるのだろう、ほんの少し目尻に涙を浮かべている。
綺麗に入ったので、返事も出来ない様だ。
仕方がないな、と脇に手を入れてずるりと善逸の体を動かす。膝に善逸の頭を乗せると左手で軽く頭を撫で始める。

よく、妹が不貞腐れた時もやったなぁ、と少し懐かしい気持ちにもなった。

そこではたり、とユウは左手を止める。
どうして今、妹の事をすんなりと思い出せたのだろうか?


「……ユウさん?」


ユウの様子が気になったのか善逸が下から覗き込む様に顔を見つめる。


「……あ、ぁ、いや、別に」
「ぐっ!!」


またドゴ、と鈍い音が聞こえたと同時に呻き声が小さい部屋に響く。慌ててそちらを見ると伊之助が宇髄に殴られて両手を広げて倒れている。
あらら、と顔を顰めると膝の方で善逸が締まりの無い顔でユウの脚に擦り寄っていた。
元気になったのだろうと善逸の頭を少し持ち上げ脚を抜く。そしてぱっと手を離すと善逸の頭が地面に勢いよく落ちていった。

呻き声が聞こえた気もしたが、聞こえないったら聞こえないのだ。


「ご入用の物をお持ち致しました」


襖がすすっと開くと、家の当主が笑顔を浮かべて箱を部屋に入れると一礼し、また襖を閉めた。「さて」と宇髄は立ち上がる。


「お前ら、準備は良いだろうな」


宇髄の瞳が楽しそうに歪んだ。







炭治郎達に着付けをして化粧を宇髄に任せたのがいけなかったのだろう。ユウが自分の準備が終わり部屋に戻るとそれはまぁ見事な醜女が揃っていた。


「ん?あぁ、ユウ準備が終わったの……おい」
「どうしたんです?師匠?」


わざとらしく首を傾げると、いつもなら少し揺れる髪が全く揺れない。そんなユウの様子を見て宇髄は呆れ、ため息を吐く。


「どうしてそんな格好しているんだ」
「え?似合ってませんか?」
「似合っては居るけどな、お前なぁ……」


宇髄の背後で炭治郎達がそわそわと何か言いたそうである。


「炭治郎達が見た目年齢揃っているので、浮かない様に私なりに考えた結果ですよ、師匠」
「……まぁ自分で処理するなら良いけどよ…………」
「ユウさん!?あの、その、髪……っ!!」


善逸が指をふるふると震えさせながらユウを指差す。
今のユウは髪が短くなっており、服装も男性が着るものを着ている。が、化粧をしているといってもどことなく女性らしさは残っていた。


「別に切ってはないよ。遊郭で女の髪って大事らしいし、切ったら潜入に支障が出るでしょ?カツラだよこれ」


ユウは遠回しに任務に支障が出ないなら髪なんかいくらでも切れると遠回しに言っていることに気付いて居なかった。

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