「で?どこ行くんだ?オッさん」


伊之助が頭の後ろで腕を組み、暇そうに宇髄へ問いかけた。
宇髄はピタリと止まる。


「日本一、色と欲に塗れたド派手な場所。鬼の棲む"遊郭"だよ」


ニヤリと宇髄は笑った。







師匠の悪い癖だ、と半ば諦めの気持ちで会話を聞いていた。


「そしてもう一度言う!俺は神だ!!」


ビシリと決めポーズまでして宇髄の口は一度止まる。そのタイミングでユウは手をパチパチと鳴らし「よっ、神様!宇髄天元様!」と何とも軽い合いの手を入れた。
声音は勿論気持ち良くなってもらう為に、嬉しそうな音だが、目は死んでいる。
善逸の顔が「やべぇ奴だ」とありありと言っていたが特に突っ込むことはしなかった。したら折角したヨイショが無駄になるからだ。


「具体的には何を司る神ですか?」


勢い良く手を挙げたかと思ったら、炭治郎は至極真面目な顔でそう宇髄へと問いかける。


「良い質問だ。お前は見込みがある。俺は派手を司る神……祭りの神だ!」
「俺は山の王だ。よろしくな、祭りの神」


ぶふっ、と耐えきれなくなりユウは吹き出してしまった。炭治郎の問いかけはギリギリ耐えたものの、伊之助の堂々とした物言いには我慢が出来なかったのだ。
慌てて咳払いをして誤魔化し始める。

普通の人間なら善逸の様に「何を言っているんだ、こいつ」といった表情になるが2人は当然の様に受け入れていた。
いいぞいいぞ、人として逸脱してていいぞ、と心の中で2人を褒め称える。善逸も無言ではあるが表情が騒がしくてとても面白い。きっと彼の心の中は騒がしいのだろう。是非それも聞きたかった。


「何言ってんだお前……気持ち悪い奴だな」


宇髄は顔を歪めて伊之助へとそう言った。
んふぅん、とユウは必死に声を押し殺す。伊之助の様な対応は初めてであり、またその宇髄の反応も初めてであったのだ。
師匠ってこんなにやばい奴だったのか、と新たな一面を知れてユウは1人喜んでいた。


「花道までの道のりの途中に藤の家があるから、そこで準備を整える。付いて来い」


シャラ、と宇髄の髪飾りが揺れるとその場から宇髄は消えた、様に3人は見えたのだろう。驚き、辺りを見回し始めた。


「君達、真っ直ぐ進行方向を見てごらん」


ユウが道の先を指さし、そう告げると「あっ」と3人は宇髄を見つけ走り出す。


「これが祭りの神の力……!」
「いや、あの人は柱の宇髄天元さんだよ」
「追わないと!追わないと!!」


慌てて追いかける3人の速度を見て「ふむ」とユウは顎に手を当てて考え込む。勿論走るのは止めない。


「君達、全集中の呼吸・常中は会得しているよね?」
「あ、はい!あの時はありがとうございました!」
「いえいえ。じゃあその全集中の呼吸のパワーを増やせる?より多くの空気を同じスピードで吸うの。又は今の呼吸の割合を足に多く回してみて」


ユウが言った事に首を傾げながらも、3人は素直に頷く。
善逸は雷の呼吸で慣れているのだろう、足に空気の割合を増やし2人を置いてひゅん、とスピードを上げた。逆に伊之助は空気を取り込む量を増やし、直ぐに善逸へと並んだ。2人はあの調子なら宇髄を見失う事なく追いかけられるだろう、と察し炭治郎へと視線を向ける。


「あ、ご、ごめんなさい、ユウさん」
「はい、直ぐ謝らない。前に言った通り、2人は"なんとなく"で出来るタイプだから気にしない事。やってなかった事を急にやれって言っているんだから出来なくて当然なんだよ」


はい、と少ししゅんとして炭治郎は頷いた。
確かに自分が出来なくてユウがそれに合わせていると考えると申し訳ない気持ちになるのだろう。


「……炭治郎。実は君、割合だと2人より多く空気を使えているんだよ」
「え!?」


炭治郎の後ろに付き、禰豆子が入っている箱に手を添えた。


「私が禰豆子ちゃんを持つから、今のスピードのまま肩紐を外して」
「でも、」
「いいから」
「……はい!」


炭治郎は大人しく肩紐を外し、ユウへと禰豆子を渡す。ユウも揺らさない様に注意を払って背中に箱を背負った。


「君は禰豆子ちゃんを運ぶ時に揺れない様に気を付けているね?」
「はい!禰豆子が怪我をしない様に気を付けてます」
「つまり、体の動きを常に制限しているわけだ。……今、君は禰豆子ちゃんを持っていないんだから、さっき私が2人に言った事を意識して"走りやすい様に走ってごらん"」


こくり、と炭治郎が頷いたのを確認するとユウも自身の足に力を込める。
ーーさて、どのくらい早くなるか。
炭治郎の足に力が込められ、スピードが上がった。それにユウは狙い通り、とにんまり笑みを浮かべ3人に並ぶ。


「よしよし。3人とも調子が良いねぇ!今のままでも見失う事は無いけれど、出来そうならもっと割合を増やしてみてごらん」


ユウはそう3人に告げると禰豆子に気を付けつつスピードを上げて天元を追いかけ始めた。

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