ユウはその後も宇髄と任務を遂行していった。
ある日、鎹烏が2人の前に現れ、ユウの肩に止まる。
そして口を開き、煉獄杏寿朗の訃報は伝えられた。


「…………」


ユウは言葉が出なかった。
あんなに、明るく、強かった煉獄でさえ、上弦の鬼には負けてしまったのだ。手が震える。もっと、もっと、鍛えなければ、自分は死んでしまうのだろう。


「……上弦の鬼には煉獄でさえ負けるのか」


宇髄の零した言葉もどこか不安が混じっていた。







煉獄の空いた柱にはユウか義勇かどちらが入るか、明言はされていなかった。そして柱のひと席が空白のまま時は過ぎる。
その時ユウは刀を前に精神統一をしていた。
耳を澄ませ、ゆっくりと呼吸をしており、静かな足音がユウの部屋に向かって来ていた。
この屋敷の中で1番小さな足音は宇髄である。


「ユウ、遊郭に行く準備をしろ」
「え?」


宇髄邸、通称忍屋敷で次の任務まで鍛錬を行なっていたのだ。任務が来たのかと思ったが、それにしては宇髄の顔色が悪い。


「妻達からの連絡が途絶えた。向かうぞ」
「……っ!?はい!」
「ユウの分とは別にいくつか着物を持ってくれ。胡蝶の所で何人か連れて行く」
「継子のカナヲはしのぶの許可がないと駄目ですよ」
「分かってるっつーの。あそこは他にも居るだろ」
「そうでしたっけ?」


女の隊員が居た記憶は無かったが、まぁなんとかなるだろう、と思っていたあの時の自分が馬鹿だったとユウは溜め息を吐いた。
目の前で宇髄は人攫いの様な格好でアオイとなほを抱えている。2人は必死に抵抗していた。その2人を連れていかれまいとカナヲも、連れていかれそうな2人の服を引っ張り止める。それに感化されたきよとすみも宇髄へと引っ付く。
確かに説明も無しに連れて行こうとしたらこうなるだろう。
地獄絵図だった。


「師匠、大泣きしてますけど」
「うるせぇ!てめぇも手伝いやがれ!」
「いや〜流石に本気で泣いてる子を無理矢理連れていけませんし、そもそもこっちの子隊員じゃ、」
「女の子に何しているんだ!手を離せ!」


聞きなれない声が響いたと思い、ユウが振り向くとそこには炭治郎が居た。ユウと目が合うと嬉しそうにしたが、宇髄を見て口をぽかんと開けた。何が起きているのか考えているのだろう。


「人さらいです〜!助けてくださぁい!」
「このっ馬鹿ガキ!」


宇髄が顔を歪めるとなほは甲高い悲鳴をあげ、その悲鳴に反応して炭治郎は宇髄との距離を詰めて頭を振りかぶった。
が、空振りに終わる。宇髄を掴んでいたカナヲにきよとすみは地面へと転がった。あらら、とユウは溜め息をつきながら炭治郎と共に3人を起こし、砂埃を少し払う。


「愚か者。俺は"元忍"の宇髄天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男。てめぇの鼻くそみたいな頭突きを喰らうと思うか?」


屋根へと移動しており、宇髄は鼻を鳴らし炭治郎へ睨みを効かせる。そして側にいるユウへと視線を動かし口を開こうとした。


「アオイさん達を離せ!この人攫いめ!一体どういうつもりだ!」
「……おい、ユウてめぇ知り合いなら大人しくさせろ!」
「いや〜今の状況、師匠の所為じゃないですか〜。ちゃんと見てください。そっちのなほちゃんは隊員じゃないですよ」


じゃあいらね、と屋根の上から軽々となほをユウの方への落とす。炭治郎が慌てて受け止めた。


「何て事をするんだ!人でなし!」
「わーん落とされましたぁ!!」
「酷い!野蛮人!変態!」
「女の子投げるとか……信じられませんよ師匠」


炭治郎を皮切りに宇髄へと暴言が投げられる。ついでにとユウも言うと宇髄の目がギラリと光った。


「てめーらコラ!誰に口利いてんだコラ!!ユウもちゃっかり言ってんじゃねぇ!!俺は上官!!柱だぞこの野郎!!」
「お前を柱とは認めない!むん!!」
「むんじゃねーよ!お前が認めないから何なんだよ!?こんの下っ端が!脳味噌爆発してんのか!」


あ、これ切れたな、と思ったがもう遅く、宇髄は大声で叫び出す。だが炭治郎はそれに物怖じせずに反抗し、2人のやり取りにユウは「あはは」と声を上げて笑ってしまった。
むん、って急にどうしたと1人ツボに入ってしまい涙も出てくる。


「俺は任務で女の隊員が要るからコイツを連れて行くんだよ!!"継子"じゃねぇ奴は胡蝶の許可をとる必要もない!!」
「最初の予定より人数足りてませんけどね」
「……まぁこればかりは仕方ねぇ。とりあえずコイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇが、こんなのでも一応隊員だしな」


何とか笑いを堪え、宇髄を落ち着かせようと声をかける。宇髄は少し間をあければちゃんと冷静になれるのでユウはその間をつくるだけでいい。
炭治郎は宇髄に思った事をすぐ言ってしまうので、この2人は合わないのだろう。
そんな事を思っているとアオイの抵抗していた動きが止まっていた。


「人には人の事情があるんだから無神経に色々突き回さないで頂きたい!アオイさんを返せ!」
「ぬるい、ぬるいねぇ。この様なザマで地味にぐだぐだしているから鬼殺隊は弱くなっていくんだろうな」
「アオイさんの代わりに俺達がいく!」


炭治郎がそう宣言すると宇髄の左右に善逸と伊之助が構えている。
へぇ、とユウは感心した。身体能力が飛躍的に上がっている。彼らは全集中の呼吸、常中をしっかりとマスターしたらしい。


「今帰った所だが、俺は力が有り余っている。行ってやってもいいぜ!」
「アアアアアオイさんを放してもらおうか。例えアンタが筋肉の化け物でも俺は一歩もひひひ引かないぜ」


伊之助は変わらず堂々としているが、善逸は怯えながらも引く事は無い。言葉が揺れてしまっているがその善逸の様子にユウは驚いていた。
あんなに怖がっているのに彼はきちんと自分の足で鬼へと向かう力があるのだ。それなのに、と宇髄が抱えているアオイへ一瞬視線を向ける。

彼女自身はとても良い子だと思う。この胡蝶屋敷で働けているし仕事も早い。けれどこれ程までに鬼殺隊として仕事が出来ない子なのかと少しばかり落胆してしまった。
彼女が何を抱えているのかは知らないが、もう戦う気が無いのなら隊服は脱がなくてはならない。それが前線で戦っている者への礼儀なのだ、とユウは思っている。


「…………」


ピリッとした慣れた感覚にユウは宇髄を見上げた。
そして何かを考える様に炭治郎、伊之助、善逸を見て、また宇髄へと視線を戻す。
その時に宇髄と目が合うが特に何も行動を起こす事なくじっと見返していた。少ししてふぅ、と宇髄が小さく息を吐く。


「……あっそォ。じゃあ一緒に来てもらおうかね」
「!?」


ごくり、と炭治郎の喉が鳴る。
何故すんなり宇髄が受け入れたのが不思議なのだろう。この様子を見るにユウが言った事はすっかり忘れている。
確かに頭の片隅にでも置いておけばいい、とは言ったものの、少し寂しさをユウは感じた。


「ただし絶対俺には逆らうなよ。お前ら」


パン、とアオイの尻を景気良く叩いた宇髄に、ユウは溜め息を吐くのだった。

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