鎹烏がユウの肩へ止まった。
足に付いている紙を解き、破れない様細心の注意を払って開く。


「……時間か」


その紙には任務に向かう様に記されている。炭治郎の稽古も会得するまでは見れなかったが、彼なら出来る様になるだろう。後は伊之助と善逸だ。
まぁ彼らも会得出来るだろうが、些か精神面が不安だった。ユウは部屋に戻り白い紙を3枚用意し始めた。







「え!?ユウさん戻らないんですか?」


ユウが任務に向かってから数日後、炭治郎が全集中・常中を会得し善逸と伊之助に教えている時に来たしのぶから、炭治郎はユウが居ない事を聞いた。


「えっ!?お前気付いて無かったの!?」
「ユウさんって偶に居なかったりしたからそれかなぁって」
「いやいやいや、それにしては長すぎじゃない?」
「まぁまぁ、貴方達3人にユウさんから文を貰っていますよ」


しのぶがにっこりと笑って3枚の紙を懐から取り出す。
炭治郎、善逸と渡し、伊之助へ渡そうとすると伊之助は字が読めないと威張り出した。


「では私が読みましょうかね。えーっと……"伊之助、君の事だから負け続きで飽きたのだろうが、鬼殺隊の強いと言われている人達は全集中・常中を当然出来る。君は強くなるのに諦める様な奴だとは思って居なかったんだけどね。君が親分なんて恥ずかしいよ"以上です」


しのぶが読み終わると手紙を奪い取って叫びながら道場から出て行った。多分裏山へ向かったのだろう。
善逸も手紙を読んで震えだす。


「ユウさんが!!俺の事器用って!!やれば出来るんだって!!期待してるって!!ユウさん!俺!やる!!」


ふへへへと変な笑い声を上げ始めた善逸を視界の端にみつつ炭治郎も手紙を開いた。


「"これを渡す時は炭治郎が会得した時にとお願いしてました。まずは全集中・常中会得おめでとう。君なら出来ると思ってた。最後まで見てあげられなくてごめんね。君の事だから心配してはないけれど、これで慢心せずに鍛える事。禰豆子を人間に戻すつもりならもっと強くならないといけないよ。次、お互いが生きてまた会えたら手合わせしよう。君の成長楽しみにしている"」


ぞわぞわと体の内側から何か不思議な波が体を回る。
自分の意識をピンっと引っ張られる様な感覚。炭治郎は口角が緩むのを感じた。


「……私も人身掌握には結構自信があるんですけどね、流石ユウさん。伊達に冨岡さん達と意思疎通していないです」


しのぶは善逸と炭治郎、今はこの場に居なくなった伊之助の様子を見て優しく微笑んだ。







バシャリと血が目の前で広がる。
刀から滴り落ちる血を風圧で全て払い、刀を仕舞った。


「終わったか、ユウ」
「お待たせしました、師匠」


宇髄の表情は何とも言えない顔をしており、宇髄から見てもユウは微妙な顔をしていただろう。


「まさか鬼の方にも頭が回る奴がいるとはな」
「騙される方も騙される方ですよ。最後、この人達なんて言ったと思います?"生き残る為なら他を殺してもいい"って。他を生かす為に命かけてる私達には悪手ですよねぇ」


ははは、と乾いた笑いがユウから出た。


「それにしても悪かった。お前、人を斬りたくなかっただろ」
「いえいえ。仕事ですし、向かってきてくれたので寧ろ楽でした」


この場は緩い坂になっている斜面でユウは自分の方に転がってきた人間だった物を左へと蹴り飛ばす。その様子に宇髄は失笑を浮かべた。
もう自分が殺した人間には興味がない様子で安心はしたが、斬る時はやりにくかっただろうにそれを出さないユウに褒めるべきか怒るべきか、悩みどころである。


「藤の花を背負っているのに鬼の味方をするなんて、鬼殺隊も随分舐められたもんですよね」
「…………ユウ」
「いや、だからこそですか。鬼の恐さを身を以て知っているから、鬼より人間の方が騙せると思ったんでしょうね」
「……ユウ」
「改めて人間の醜さを再認識しました。皆、人間らしくしなくて良いんですよ。ちょっとズレている位が丁度良い」
「ユウ!」


キョトン、と不思議そうにユウは首を傾げた。
その様子に宇髄は溜め息を吐く。


「お前、怒ってるだろ」
「怒ってません。呆れてるだけです」
「いや、怒ってるだろ」
「呆れてるだけです!」
「あーはいはい、そうか。とりあえず降りるぞ」
「分かりました。……本当に怒ってません。失望しているだけです」


ぶすっと言い放ったユウは唇が少し突き出ている。
本当に手がかかる、と宇髄は先導して山を降り始めた。


「ねぇ、師匠。生きていなくてもいい人が生きていて、死ぬべきではない人が死ぬって随分酷い世界ですよね」
「……それはお前の判断基準だからな。お前自身の正義を否定するつもりはねぇけど、全部が全部お前に当てはまるとは思うなよ」


ぱちくりとユウは目を瞬かせた。
そして少しした後、気が抜けた様な口角が緩み切った笑顔を見せる。


「確かに。今、すっごく傲慢でしたね」


ふへへ、と急に元気に笑い始めたユウに宇髄は呆れた。どこがユウの琴線に触れたのか分からないが元気になったのなら良かったのだろう。

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