「ユウさん?」


息を乱しながら、耳を両手で抑えた炭治郎が首を傾げている。炭治郎が全集中の呼吸・常中を会得しようとしている話は聞いていた。


「……炭治郎」


ユウに名前を呼ばれた炭治郎は素直にユウの側へと寄っていく。
ユウの血鬼術もどきも解明された事で、錆兎と義勇は任務に戻ったが、その錆兎から、ユウは少しの休息を取らせるべきだと言われ、お館様もお館様でそれを認めてしまった。
その為にユウは暇を持て余していたのだ。


「私が見てあげよっか?」


だからこれは決して体を動かしたいが為に、炭治郎を利用している訳では無い。


「えっ!?良いんですか?」
「もちろん」
「よろしくお願いします!」


違うったら違うのだ。
ユウは炭治郎の様子をみる為に縁側に座り込む。


「どのくらいもつか試した?」
「はい!ほんの数十秒しかもちませんでした」


ちょっとやってみて、とユウに言われ、炭治郎は呼吸を整えてから全集中の呼吸をやり始めた。
じっとユウは炭治郎を見つめる。
呼吸のタイミングが早く、肩も上がっている。無駄に全身に力が入っているし、頑張ろうとしているのは伝わるが随分と無駄で効率が悪かった。


「うん、もう良いよ」


ユウが止めると炭治郎は息を乱してその場に尻餅をついた。


「炭治郎、取り敢えずやっている事全部無駄。ダメダメ。効率が悪すぎる」
「えっ」


ユウの急な毒舌に、ショックを受けた様な顔をした。そんな顔をしてもダメなものはダメなのだ。
がむしゃらにやればなんとかなる様なタイプは伊之助であり、善逸はやる気にさえなれば意外に器用に出来るタイプで、炭治郎はどちらかというと理論的にコツコツとやる方が性に合っている。
と、いった事を炭治郎に伝えると嬉しそうに返事を返す。何が嬉しかったのかは分からないが、やる気を無くさせてしまった訳では無いのでいいだろう。


「そうだねぇ〜。まず基本的な体力が足りて無い。全集中の呼吸・常中が出来れば確かに基礎力は上がるけれど、元が出来てなければそもそも会得出来ないものだ。だからまずは体力をつける事。肺を強くしてね」
「はい!」
「それから呼吸の時に無駄な力が入っている。とりあえず全身に重量を感じながら一呼吸をなるべく長くする事だけもやった方が良いかも」
「分かりました!」
「それから最後に集中力を上げる練習ね。最終的には呼吸をする様にスイッチを入れられる様になるのが1番だけど、とりあえず呼吸を続けられる程度まで続けられれば良いかな」
「ありがとうございます!」


炭治郎はユウの言葉に深く頷きながら元気な声で返事をする。素直で良い子だし、こちらとしても教える気になるというものだ。炭治郎の側にあった木刀を持つ様に指示して、ユウも庭に降りる。


「私は素手のままだから好きな様に打ち込んで。打ち込む間は常に全集中の呼吸を必ずする事。寸止めとか気にしないでいつでもどーぞ」
「え!?あの、でもユウさんの事怪我させてしまったら」
「心配してくれてる?……大丈夫だよ、"当たらないから"」


すぅっと息を吸うのと同時に、自分の中で反復動作で体に馴染ませた殺気を炭治郎へと向ける。


「1番は実践で伸びるからね。それに近い緊張感の状態でやってみようか。……もう少し抑える?」
「……い、いえ!行きます!」


炭治郎はユウの殺気に驚きながらも木刀を握りしめ、ユウへと振りかぶった。







息を乱している炭治郎を見てやり過ぎたかとユウは頭をかいている。でも師匠のやり方はもっと強引だったんだけどなぁ、と自身のやり方が炭治郎に合わなかったかと不安になっていた。


「あ、ありがとう、ござい、ました」
「はい。よく頑張りました」


胡蝶屋敷に居るなほ、きよ、すみも2人のやり取りを途中から見ており、ユウへと水を渡すと、炭治郎にも渡してくれた。
そのお陰でか、少し息が整った炭治郎も縁側に腰をかける。そしてユウへと視線を向けた。その目は凄くきらきらしており、いや、実際には光っている訳では無かったが、ユウはそう感じた。


「ユウさんって凄い方なんですね!初めて戦っているところを見ました!」
「……それ、短気な人に言ったら怒られるから気を付けなよ」
「分かりました?こう、急にぐわ〜っときたと思ったらしゅんっとなったやつは何ですか?」


首を傾げながら頷いた炭治郎は絶対、ユウが言ったことを理解していなかった。本人はそのつもりが無くても、捻くれ者には凄い人だと思ってなかったと伝わるだろう。
それにしても、ここまで兄弟子に似なくても良いのにな、と呆れた溜め息を吐いた。


「君も錆兎と同じタイプか……。多分言っている事は殺気のコントロールの事でしょ?」
「殺気のコントロールですか?」


ユウは3人が用意してくれた茶菓子を口に含んだ。甘いあんころ餅だった。ユウの頬が緩んだのを見てなほ、きよ、すみは満足気である。


「私が得意にしてるのは殺気のコントロールなんだよね」
「ユウさんは鬼殺隊1、感情のコントロール力をお持ちなんです!」
「柱の方のお稽古にもよく付き合われてますし、実力は柱公認です!」
「次の柱候補と言われています!」
「殺気のコントロール?」


後ろからなほ達も得意気に話に混じった。
ユウは終わった後に貰った水とは別のお茶を啜りながら頷く。


「例えばさ、殴るぞ〜って殴られるのと、何も思って無い状態で殴られるのは別なの分かる?」
「はい、一応は」
「私はそれ使い分けられるんだよね。多分やってみた方が早いかも」


お茶をお盆に置いて炭治郎へと向いた。


「今から君を殴る」


殺気を込めて呟く。炭治郎は気の抜けた顔から一気に真剣な表情になった。それを確認してから頭を軽く叩く。


「んで、次ね。……今から君を殴る」


同じ言葉ではあるが、今度は殺気を全てしまってから言う。そして炭治郎の頭を先程と同じ要領で叩いた。


「どう?違いは分かった?」
「はい!1回目はぞわっとなったんですけど、2回目はなりませんでした」
「ん。正解。……実際は2つの間をもっと細かく使い分けてるけど。まぁ、分かりやすくしたし、このくらいなら炭治郎も分かったでしょ」


また庭へ体を向け直すと2つめのあんころ餅に手を伸ばす。


「戦闘中って多かれ少なかれ、殺気が必ず出てるんだよ。フェイントとかだと逆に出なかったりする。私は常に何を狙っているのか隠した状態で、急所を狙う攻撃が出来るんだよね」
「へぇ〜!」
「ま、殺気を感じ取れる相手じゃないと使えない手だけど。意外に感覚的にそれを理解しているタイプもいるし、持ってて悪い技術では無いかな。伊之助はそのタイプだろうし、炭治郎や善逸はにおいや音で感じてるんじゃない?」
「言われてみれば……」


炭治郎は何かを思い出す様に顎に手を当てて考え始めた。
人間、意外に自覚していない事を無意識に感覚として捉えている事が多い。少しでもそれを自覚出来たなら今度はそれを意識的にコントロールする術を身につけるだけだ。


「ま、この話は頭の片隅にでも入れといたら良いかな。殺気のコントロールが出来ても圧倒的な力の前では無力だしね。まずは力をつける事を1番に考えときな」
「分かりました!わざわざありがとうございます」
「いえいえ。それが先輩の役目だからね」


ずずずずずっとお茶を飲み終わると、ユウはなほ、きよ、すみにお礼と炭治郎を宜しく、と声を掛けて部屋に戻って行く。
庭で炭治郎が瓢箪に驚いている声がユウは聞こえていた。

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